勝利の余韻、深まる謎。
背後で巻き起こる喝采。
湧き上がる勝利の余韻。
どうやらアカネさん達も上手くやりきったようだ。
影からの増援は――今回は無いっぽいな。
案外呆気なく終わったけど結構疲れた。
あの姿は体力の消費が激しい――いや、身体が慣れてないだけか。
「お疲れ、怪我はなさそうだな」
「ご主人もご無事で何よりです」
慢性的な栄養失調から解放され重い足枷を外されたかのように身軽だ。
身体が思考に追随するとはなんと素晴らしき事であろうか。
「ここに来てからどいつもこいつも初見の生き物ばかり――少し調べてみるか」
借りていたが結局使わず仕舞いだった護身用ナイフを手に、化物の腹を更に割る。
ありふれた臓物の他、明らかに異様な袋のような器官が目に入る。中にはガスのようなものが充満していた。
生命活動には明らかに不要。報告する必要がありそうだと判断しそれを切り離す。
「戻るか、皆が待ってる」
勝利の喝采が集落全体を包み込む。
戦死者ゼロ人で怪我人も少なく完全勝利とも言える成果が上がっていた。
計画途中でありながらもアカネさんの策が功を奏した結果だろう。
咆哮にあてられ倒れ伏していた者達の体調も良好と言える。
アカネさんは戦後処理に追われ、その補佐としてカイトさんが付いていた。
「アカネさん、今戻りました」
「おおクロツグか、よくぞ無事で戻ってきてくれたな。お前達なら絶対やってくれると確信していたからから心配はしてなかったがな」
「クロ坊の方を気にして腕怪我した奴がよく言うぜ、全く」
「バカ、余計な事を言うな」
この二人は本当に仲がいいな。
「アカネさんはほんと昔っからそういうとこありますよね……怪我は大丈夫なんですか」
「ああ、大した事は無い。それよりその手にある袋のようなものは……そうか、やはり」
「やはり何か心当たりが」
「ああ、おそらくその中には引火性のあるガスが含まれている。戦闘中、火でも吹き掛けられなかったか?」
思い当たる節はない。
「いや、そんな攻撃見ませんでしたが……」
悩むような素振りを見せた後に何故か呆れたような表情を向けてくるアカネさん。
「その猶予が無かったんだと考えるのが自然だな……」
無言の苦笑いで返した後、戦闘前に聞きそびれていた疑問を投げかける。
「結局、奴らは何者なんですか? ここを襲ってきた目的は一体?」
「奴らは街喰らい、村喰らい、規模によって名称は様々であるが――そう、呼ばれている」
「街喰らい?」
「そして俺達の、あの場所を、人を、全てを、奪ったモノの正体だ」
衝撃が走り言葉が詰まる。
「あの日俺達に降り掛かった厄災は、街喰いなんて括りに収まる程甘いシロモノでは無かった。逃走中、捉えたんだ。この目で、奴らを、その大群を。他の奴らはその姿を捉える事すら出来なかったらしい」
「そんな話、聞いたこともありませんでした。ただただゴミのように燃やし尽くされたという現実。それが俺の見えていた物全てでしたから」
「ああ、俺がこれを知ったのも避難先での事だ。あの場で死んだ者には知る由もないだろう」
物思いに耽るような素振り。
「そして奴らの目的についてだが――現状、何も把握出来ていないも同然だ。襲われた場所がその後どうなるのかさえも」
「ここが救われたのは度重なる偶然の賜物だろう。クロツグ、お前もその一つだ。ここを代表して礼を言わせてもらう」
「気に入ってしまったんですよ、ここが。アカネさんもそうなんでしょう?」
「そうだな、奴らに一杯食わせてやりたかったってのもあるが」
アカネさんはニヤリと笑みを浮かべる。
「それは俺も同感です。報復しても失われたモノは戻ってこない、何も生まない。そんな言葉は最後に仕掛けた者の戯言。復習が成された時の達成感は何物にも変えがたい。黒い感情は吐き出しておくに限ります」
「その通りだ、よくわかってるじゃないか。流石俺の側で育っただけの事はあるな」
「そんなに褒められると照れますよ」
「……親が親なら子も子とはよく言ったもんだな」
カイトさんがやれやれといった様子で呟く。
「ところでクロツグ、さっきはツッコミを入れる時間が少なくて一旦置いておいた事についてなんだが」
アカネさんはましろの方に目を向ける。
「ましろ……ちゃんが一体何故人間の姿になってるのかを教えてくれないか」
「ああ……それは俺が聞きたいぐらいですね。分かっているのはこっちに来てから変身出来るようになった、って事ぐらいです」
「そうか、摩訶不思議な事もあったもんだな」
しげしげとましろを見つめるアカネさん。
「ちなみに俺も犬の姿になれますよ、さっきもそれで戦ってきました」
「軽く言ってくれたがそれも随分な事だなおい!?」
ここに来てからアカネさんを驚かせてばかりな気がする。




