未知との遭遇、既知との再開。
集落の入り口辺りが騒がしくなってきたな。どうやら気付かれたらしい。
いや、最初から隠れるつもりなぞ毛頭無いのだが。
「今のところ露骨に警戒されている様子は無いな」
「(迎撃の準備、出来てたんですが)」
なんでちょっと残念そうなんだこいつは。
俺自身、手荒い歓迎を受ける覚悟はあったが杞憂で終わって良かった。
集落の方から使いと見受けられる人物が近寄り、こちらとの十分な距離を保った状態で何かを始める。
なんか言葉っぽいモノを発してるっぽいが……
「案の定、何を言ってるかサッパリだな」
「(ましろにいい考えがあります)」
突如ギョッとし、頭を押さえる使いの者。が、すぐに頭を上げるとこちらに向かって再び届かない言葉を送ってきた。
そんなやりとりを数回、ようやく警戒を緩めた様子の使いが、こちらとの距離を詰めてくる。
なるほど、一方的だが意思の伝達が可能らしい。
「ましろ、お手柄だな」
と、頭を撫でる。
「(もっと褒めてくれてもいいんですよ〜ご主人)」
手のひらに頭を擦り付けてくるましろ。
使いの人が一生懸命、身振り手振りで意思を伝えようとしてる。
付いてこい、って事かな。
集落との距離が縮まるほど、感じられる活気は増幅する。
「穏やかでなんだか昔を思い出すようだな」
その言葉はましろを経由し使いの者へと届けられ、言葉の代わりに微笑みが返された。
全身を優しく包み込む、清々しい程に穏やかな空気。幼少期を思い出し密かに感傷に耽った。
そのまま一際目立つ家へと案内され――目的地間違ってない?
間違ってないっぽい。
精巧に造り込まれた家。湧き上がる素直な感想。
手渡された布で足を拭いていると――ふとあることを思い立つ。
「ましろ、お前が人の姿になれると知られたら色々面倒な事になりそうだ。しばらくはその姿のままでいてくれ」
ちなみにこの言葉、九割五分は建前である。今のましろの艶姿を他の男共の眼に晒す訳にはいかない。……というのが本音の部分。
「(なるほど? 分かりました)」
俺の思惑を知ってか知らずか、いたずらっぽく妖艶な声色で了承された。
足を拭き終えた俺達はとある大広間へと案内される。
そこで待ち受けていたものは……あまりにも衝撃が大き過ぎた。
「クロツグ、クロツグなのか!?」
衝撃に打ちひしがれる己を奮い立たせ言葉を紡ぐ。
「ア、アカネさん!? 何故ここに」
彼は俺が生前慕っていた師とも親とも言える存在。
「ああ、そうだ、俺だ。アカネだ。まさか再びお前に会える日が来るとはな」
「ど、どうしてここに? あなたはあの悪夢から逃れる事が出来た筈では」
「逃げた先が必ずしも安全とは限らない、ということだな。俺は結局お前達と同じ運命を辿った。我が身の可愛さあまりお前達を見捨て、尻尾巻いて逃げた癖にな」
そこまで言ったところで俯き神妙な面持ちになるアカネさん。
「俺は後悔している。あの日の選択を」
もう、この人は本当に……今一度本心を伝えよう。
「気にしてませんよ、そんな事。俺が、俺達が選んだ道です」
「お前が納得出来ても俺が納得出来ないってのが厄介なトコだな」
「あなたはこんな俺に最後まで手を差し伸ばし続けた、その事実だけで十分なんです。しかし、そうですか。あなたもここに」
気持ちの折り合いを付けるまで要したであろう沈黙を挟んだのち、アカネさんは応じる。
「ああ、気が付いたら見知らぬ森の中。行き倒れた所をここの住人に助けられた、ってところだ」
カミサマってのは本当に気が利かないな。
「道理で警戒が薄いと思いましたよ。そういうことでしたか」
若干この集落の危機管理に疑問を抱いていたとは言えない。
「姿形は多少違えど、ここの連中は気のいいやつばかりだ。俺以外の数人もここで暮らしている」
「そうですか、アカネさん以外にも」
「一部の連中は簡単だが言葉による意思疎通も図れるようになった。俺もその一人だ」
「それは助かります、俺もその一人になれるよう努力します」
「お前ならすぐにでも身に付くだろうな。ところで俺達がこうなった理由、お前はなにか知っているか?」
「すみません、俺にも何がなんだか。何もかもが奇想天外の出来事過ぎて」
「だよなあ。俺もいろいろ考えてみたんだが、結局これと言った答えには辿り着けなんだ」
「俺達がここに連れて来られた理由が一番気になりますね」
「カミの気まぐれ、って事で俺は納得しておいた」
「振り回される方はたまったもんじゃないですね」
「ホントだぜ、全く。積もる話は山よりも高いが、今日はひとまずこの辺にしておこう。今すぐにでも歓迎の準備を始める」
「そんな、悪いですよ」
「安心しろ、こう見えてこの村ではある程度の地位を確保済みだ。持て成すくらいはさせてくれ」
この人徳は一体何処から湧いてくるんだろう。
知識豊富な上、清濁飲み込むのが得意だからなあ、アカネさん。
「アカネさんは相変わらず凄いですね。そういう事ならお言葉に甘えさせて頂きます」
「ああ、任せておけ。ところでなんだがお前、その毛皮はどうした?」
「俺とましろで狩った獣で編み上げた物です。これがどうかしました?」
アカネさんのましろを撫でていた手が浮いた。
「いや、その模様、道中俺を殺しかけたバケモンの柄にそっくりだったもんでな?」
「ああ……それは災難でしたね」
小さく身震いし一息飲むと、アカネさんはこう言い放った。
「お前達の方がよっぽどバケモンだな!?」




