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探索者学園生の日常  作者: 味醂α
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8 爆弾投下

 入学式の翌日の昼休み、頼人と田中を含む5名のクラスメイトは教室で昼食を取り終え駄弁っていた。ほかの生徒のほとんどは寮の1階にある食堂まで行ったようだが、頼人達は自称〈動けるデブ〉である田中の全力ダッシュのおかげで、校舎内で昼休みの間だけ開かれる購買のパンにありつけていた。


 はたから見たらぱしりに使われたように見えるかもしれないが、田中は報酬としてジャムコッペとカレーパンを受け取っている。入学式の騒動のせいで仕送りを減らされた田中にとっては貴重な食糧だ。


「なあ。世の中不公平すぎると思わねえか?」


 黒髪黒目の生徒、木下雄大きのした ゆうだいがいきなり深刻そうな声色で言った。


「なぜうちのクラスには女子がいない!!!」


 木下の言う通り1年8組には女子生徒がいなかった。しかしこれは2組から7組までも同様だ。もちろん理由がある。


 もともと専業探索者の女性人口は少ないのだ。主な理由は3つ。


 一つ目は探索者という職業に生傷が絶えないことだ。光属性魔法に治癒魔法があるが、治癒魔法は魔力の消耗が激しいためここぞという時にしか使えない。ダンジョン産の素材から作られる治療薬、ポーションは単価が高すぎてかなり稼げる冒険者でないと気軽には使えない。顔などに傷跡が残ってしまう恐れがある。


 二つ目は結婚が難しくなることだ。ダンジョンに潜るのに、ブランクを空けてしまうとどうしても体が衰える。特に出産後にダンジョンに復帰するには相当の努力を要する。ほとんどの場合結婚は探索者の引退を意味するのだ。


 三つ目はパーティーの組みづらさだ。一般的に男性冒険者は女性冒険者がパーティーに入ることを嫌う。なぜなら恋愛が絡むことで、パーティーの仲が険悪になる恐れがあるからだ。危険と隣り合う探索でチームワークの乱れは命取りだ。さらに女性が結婚してパーティーを抜けた場合、それまでに使っていた連携が使えなくなってしまう。もし女性が入ることに難色を示さないパーティーがあっても、女性は逆に警戒したほうがいいだろう。


 以上の理由から関東探索者学園の女子生徒の数は少ない。1年生は320人中16名だ。ほかの学年も同じくらいだ。


 そして、学園では3つ目の理由から女子生徒は女子生徒だけでパーティーを組むことを推奨している。正式なパーティーが決定するまでの1年は女子生徒が1組に固められているのだ。


「たしかに1組だけずるいよねぇ。とくに8組なんて一番女子から遠いじゃん。」


 チャラメガネこと速水千歳はやみ ちとせが木下に同意した。


「意義あり。女なんてろくなもんじゃない。」


 頼人が語りだす。


「やつらが群れると危険だ。団結力が尋常じゃない。俺は中学の運動会でチアガールをやらされたんだ。やつらの提案で無理やりだ。まだそれだけなら一時の恥ですんだ。

ただあいつらは・・・あいつらはミニスカートをはくからというくだらない理由で俺のすね毛を剃ったんだ!!

もとからそんなに濃くなかったのに、ツルっツルにな!!!!」


 それは魂からの叫びだった。悲鳴だった。


 田中は頼人の肩に慰めるように手を置くと口を開く。


「そうだよな。やつらは残酷だ。俺がポテチ食った後の指をなめただけで『キモい、きたない』と避けて悪口を言うようになった。」


「それはお前が悪くないか?っていうか学校でポテチ食うなよ。」


 立原が冷静につっこむ。


「たしかに女には残酷な一面がある。でもさ、俺らにはないものを持ってるだろ。」


 木下が諭すように語りだし、キリッという表現が最も当てはまる表情を作っていった。


「おっぱいだ。」


 速水が吹き出し、生真面目な性格の立原が顔を赤くして口をぱくぱくさせた。


「おっぱいならデブので十分だろ、ほら。」


「やめろ!垂れたらどうするんだ!?」


 素早く後ろに回り込み、抱き着くように胸をもみだした頼人に田中が声を荒げた。


 そこからはカオスだった。


 頼人と木下が言い争い、速水が爆笑し立原が赤面する。頼人の手をひきはがし安全圏に退避していた田中だったが、最終的には胸を狙った頼人と木下に追いかけられた。いつの間にか教室に戻っていたクラスメイトがそれをはやし立てる。


「雨宮頼人っている?」


 突如響き渡る凛とした声に、騒がしかった教室が静まり返る。教室の前のドアをあけて入ってきた声の主は探索者学園の天然記念物である女子だった。


 すらりとした体躯に、短く整えられた黒髪。ぱっちりとした吊り目がちの金色の瞳を持つ美人だ。


 教室中の目が彼女にくぎ付けになる。その視線を気にも留めず、他のクラスメイトと同様に固まっていた頼人に目を止めると、彼女は言い放った。


「雨宮頼人君。あなたを私のパーティーに勧誘しに来たわ。」




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