6 パーティーメンバー
「先生、席が教卓の前しか空いてないんですが。俺雨宮なんで、端のほうじゃないんですか?」
圭吾に続いて教室に入った頼人は、空いている席を指さして言った。頼人の出席番号は1番だ。
「うちの学校では新学期初日に自分で席を決めていいことになっている。仲がいい奴と近くになりたいだろうからな。ちなみに一年生はルームメイトとクラスが同じになるようになっている。」
圭吾が答える。今度は田中が口を開く。
「ルームメイトはともかく、他のやつは仲いいとかわかんないんじゃないですか。初対面ですし。」
「お前らは昨日部屋にこもっていたようだが、他のやつらは食堂なり大浴場なりでそれなりの親睦を深めていたと思うぞ。クラスは昨日のうちからわかるようになっていたし、部屋も同じクラスの生徒で固めてるしな。」
頼人と田中は呆れ返る圭吾の視線から逃れるようにそそくさと席に着いた。
それを見届けた圭吾はクラス全体に向かって話し始める。
「今日から一年間お前たちの担任になる霧島圭吾だ。ちなみに探索者ランクはA。主に実技を教えることとなる。」
圭吾の探索者ランクを聞いて、教室が少しざわつく。主に探索者の子供が通うこの学園の生徒は、探索者人口の1%もたどり着けないAランクがどれほどすぐれているか理解している。Cランクからは、力業で倒せるレベルの魔物を倒しただけでは成れないのだ。Aランクともなると卓越した技術が必要となる。ソロでも十分に稼げるであろうはずのAランクが学園で教師をしているとは思っていなかった。
――ンん゛
圭吾は咳払い一つで生徒を黙らせると言葉を続ける。
「今日はいくつかの説明を終えたら解散になる。そのあとは食堂で飯食うなり校内徘徊するなり好きにしてくれ。ただ、くれぐれも寮の部屋にこもりきりになることがないように。」
自分たちに視線が集まるのを感じ頼人と田中は気まずげに顔を見合わせた。
圭吾が説明を始める。
「お前たちは昨日寮で学生用ブレスレットを受け取っただろう。既に操作してある程度の機能を把握しているやつもいると思うが、一通り話すからきいてくれ。
このブレスレットの中には学園に関する一通りの情報が入っている。校内マップや設備の利用条件、利用可能時間などだ。それに加えて学園の教師と学生のプロフィールの情報も閲覧できる。お前たちにとって重要なのは同学年の生徒のプロフィールだ。
一回開いてみてくれ。」
生徒達はホログラムの画面を出現させて操作する。指を使っているかどうかでその生徒が魔力操作が得意であるかがわかる。
頼人は画面を見ただけで難なく操作をしていく。学生のプロフィールは学年、探索者ランク、クラスの順に分類されていた。名前で検索をかけることもできるようだ。一年生で最もランクの高いCランクの画面を開く。そこには雨宮頼人の名前の下に藤堂壮志郎、八代力の二つの名があった。知らない三人目のことも気になるが藤堂のものを見てみる。
オレンジ色の髪の男、藤堂壮志郎とは入学試験の後連絡先を交換していた。そのため藤堂が首席で学園に合格していたことも知っていたし、新入生代表あいさつの内容の相談を受けたりもした。悪い人物ではないのだが、底の見えなさを感じさせる彼のことが頼人はあまり好きになれなかった。
プロフィールには顔写真、クラス、名前、魔法の属性、使う得物、前衛か後衛かが記されている。
藤堂は攻撃魔法をバンバン使うタイプの前衛らしい。得物を扱いながらの魔法は難しいのだが、藤堂なら器用にこなすのだろう。厄介なことこの上ない。
「見ながらでいいから耳だけ傾けてくれ。」
圭吾が説明を再開する。
「お前らは1年生の間仮パーティーを組んで実習を行ってもらうことになる。
このパーティーは何度も組み直し可能だ。人数は大体4人から6人だな。
二年生になるときに正式なパーティーメンバーを決定してそれから卒業まで活動してもらうことになる。二、三年でのクラスはこのパーティーメンバーと一緒になる。
知っているやつは多いと思うが、この学園で組んだパーティーそのままで活動している卒業生は多い。メンバー選びには慎重になるように。」
この後もいくつかの説明を聞き、この日は解散となった。
圭吾がいなくなっても誰も教室から出ていこうとはしない。クラスメイトの視線は頼人に集中している。
Cランクでユニーク属性持ちだからなぁ
ぼんやりと考えながら頼人は居心地の悪さに身じろぎした。