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探索者学園生の日常  作者: 味醂α
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5 入学式

 入学式の行われる講堂の扉の前、頼人と田中は立ち尽くしていた。扉から漏れ出るマイクの音声は式がつつがなく進行していることを表している。


 頼人が寝落ちしたソファーで目を覚ました時には既に式の始まる2分前だった。慌てて田中をたたき起こして制服のブレザーに着替えたものの、間に合うはずがなかった。一度はサボるという選択をしようとした頼人だったが、それはやめた。学園の入学式は保護者にライブ配信されているのだ。頼人が家を出るときにさみしそうな顔をしていた若干子離れできていない修一のことだ。おそらく見ていることだろう。


「アマヨリ、学生用ブレスで席の場所確認できるぞ。」


 田中の言葉に頼人は学生用ブレスレットに魔力を流して操作する。ホログラムのパネルには頼人の学生情報と入学席での席の場所が図で分かりやすく表示される。頼人は1年8組だった。田中も同じクラスだ。この学園は1学年1クラス40人で8クラスある。席の位置はクラスごとに固まっているようで、二人の席の位置はステージに近い右端だった。


「俺たちは新入生が1人ずつ呼名されて、返事をして立つという糞いらない素敵イベントが始まる前に席につかなくてはならない。それもライブ配信で目立たないようにだ。最悪生徒や教師に白い目で見られてもいい。でも親はだめだ。ばれたら仕送りが止まる。何か案はないかねアマヨリ隊員。」


「デブ隊長。呼名クソイベント2組ほどまで進んでいます。」


「ファっ!?」


 講堂の扉を薄く開いて中をのぞいていた頼人の報告に田中が変な声を上げるが、すぐに気を取り直す。


「大丈夫だ。まだ5組分ある。アマヨリ隊員の魔法で透明になれたりしないか?」


「残念ながら、そんな魔法じゃありません。というか、結局遅れたのが俺たちだってばれなければいいんですよね?覆面とかでいけません?人密集してるし。」


「それだ!!」


 この時の二人は明らかにテンションがおかしかった。しかしこれを指摘してくれる人間はこの場にいない。


 突如田中の足元から影が噴出し、二人を包み込んだ。闇魔法だ。田中は影を二人の動きに合わせてを動かす。魔法の操作は得意なようだ。


 この方法なら外から二人が見えないし、特徴的な田中の体形もわからない。しかし、一つ問題があった。


「デブ隊長。前が見えません・・・」


 中からも外が見えないのだ。呼名イベントは6組終盤に差し掛かっていた。


「ええい! もう時間がない。

アマヨリ隊員、足元は見えるんだ!椅子の数を頼りにしていくぞ!!」


 田中は学生用ブレスレットで講堂内のマップを表示させると扉を開けて歩き出した。



 講堂の中黒い謎物体が後方からステージの方向へゆっくりと進む。


 黒い物体の中頼人は田中にぴたりとくっついて進んでいた。通った近くの席から「は?」とか「ひっ」とかいう小さな声が聞こえるが気にしないことにした。


 8組の席はすぐそこだ。二人の足が自然と早くなる。


「なっ」


「は?」


 突然二人は。後ろから何者かに肩をつかまれた。驚いた拍子に田中の闇魔法が霧散する。二人が首をぎこちなく回して顔を後方に向けると、そこには額に青筋を浮かべた一人の男性教諭が素敵な笑顔を浮かべていた。


「田中秋明、雨宮頼人。入学式が終わったら職員室に来るように。」


「「はい・・・」」


 その返事は奇しくも頼人の呼名にかさなっていた。



***


 

 霧島圭吾は担任を受け持つことになった2人の生徒を従えて自分のクラスへと向かっていた。先ほどの入学式で奇妙な入場の仕方をした二人に事情をきくと、遅刻した理由も魔法を使った理由もくだらなかった。


 使われた闇魔法が見事だったところがまた何とも言えない。圭吾はため息をつくと後ろの二人に目を向ける。

田中は


「仕送りが・・・ 仕送りが・・・」


 と譫言のように繰り替えし、雨宮はそんな田中の肩にそっと手を置いていた。こいつらは反省しているのだろうかと圭吾は本日何度目かわからないため息をついた。

 


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