3 入学試験2
魔法の属性には 火、水、風、土 の基本属性と 光、闇 の特殊属性があり、それぞれの属性によって変化する髪や瞳の色が決まっている。火は橙色、水は青、風は緑、土はあずき色だ。一人で持てる属性は一つであるため、相手の色を見ればどの属性の魔法を使うのかがわかる。光は金色、闇は黒であるためそれがもとから持った色なのか魔力によって変わった色なのか一目で判断がつかないことがある。実際に色の変化が起こらず魔法が使えないのかと落ち込んでいたら、実際は潤沢な魔力を持った闇魔法の使い手だったということもある。
ほとんどの魔法使いの魔力が基本属性か特殊属性かに当てはまるが、ごくまれに当てはまらないものもある。これらはユニーク属性と呼ばれ個人の固有属性だ。有名なユニーク属性魔法持ちのなかにはあたり一面を凍り付かせたり流星を降らせるなど規格外の魔法を使う者も多い。そのため、ユニーク属性持ちは何をするかわからない爆弾とされている。
淡紫色の瞳を持つ頼人はユニーク属性持ちだ。オレンジ色の髪の男は頼人がすぐに模擬戦の決着をつけてしまうような魔法を使うことを警戒したのだろう。もちろん頼人に試験の場でそんなことをするつもりもなければ、もしそうなったとしても試験官が何らかの処置をするだろうが、頼人自身がこの男の剣の実力を知りたいと思ったためだまってうなずいた。
前の組と模擬戦が終わって呼ばれた頼人と男は試験官から魔力の質を調節するブレスレットを受け取った。ランクによって有利不利が出ないようにするための処置だ。このブレスレットはEランクほどまで魔力の質を下げることができる。魔力の質を上げるブレスレットは存在しないためこの学園の受験資格はEランク以上となっている。余談だがスポーツ界では魔力の質を上げていない状態まで下げるブレスレットが使われている。
ブレスレットを着用した二人は数メートルの間隔をあけて向かい合うと自然な流れで得物を構えた。二人の間に緊張感が張り詰める。
開始の合図とともに二人は地面をけった。
ちょうど中心で短剣と片手剣がぶつかる。頼人は片手剣を抑えている右の短剣を手首を使ってうまく滑らせると左手の短剣出男の首筋を狙う。
相手はさけら危なげなく避けるが、避けられることが分かっていた頼人は左手を突き出した流れで相手の背後に回りまた一撃を放とうとして やめた。
そのままバックステップで素早く退避するのと相手の片手剣が頼人のいた場所を通り過ぎていくのがほぼ同時だった。
頼人は165センチと探索者にしては小柄なうえ、しっかりと筋肉はついているが細身だ。魔力の質が同じくらいの探索者にはどうしても力で負ける。そのため頼人は速さにこだわって鍛錬を積んできた。筋肉のつけ方に気を付けたり、無駄な動き、予備動作を極限まで削って手に入れた速さに、頼人は自信を持っていた。
しかし目の前の男は少し劣るものの頼人の速さについてくる。
切り結んでは退避を繰り返すうちにいつの間にか頼人の顔には笑みが浮かんでいた。
たのしい、たのしい、たのしい
頼人が模擬戦を行ったことがある相手は師である修一を含めランクも実力も上の人間ばかりだった。模擬戦というよりも訓練をつけてもらっていたというほうが正しいかもしれない。たまに同じくらいの強さの相手と戦うこともあったが、その強さは相手魔力の質が勝っていたために拮抗していたのであって、今回のような技と技のぶつけ合いには程遠かった。
頼人の中から周りの世界が消えた。全神経が目の前の男に向かう。目は男の筋肉や視線の動きだけをとらえ、耳は剣同士のぶつかる音とお互いの呼吸音だけを拾った。
頼人の動きの鋭さが増し、次第に男の対応が遅れだす。
とうとう男がバランスを崩した。頼人はそれに追い打ちをかけるように足を払って後ろに倒すと短剣を静かに首筋へ添えた。
***
「どう考えても中坊のレベルじゃないだろう。」
試験監督をしていた学園教師、霧島圭吾は眼前で行われる模擬戦に思わずこうこぼした。いくら普段のほうがランクが高く、動体視力が優れているとはいえ実際に動きを合わせられるオレンジ色の髪の受験生、藤堂壮志郎もすごいが、雨宮頼人は少々おかしい。
切り結ぶごとに動きの鋭さを増し顔には心底楽しそうな笑みを浮かべている。薄紫の瞳は怪しく輝き目の前の獲物を見据えている。藤堂の表情がこわばってみえるのは気のせいではないだろう。
周りの受験生も顔を引きつらせたり青くしているものがいる。中にはきらきらとした眼差しを送っている者もいるが。
勝負がついたようだ。模擬戦終了の合図を出すと、雨宮が藤堂に手を貸して立ち上がらせた。そのまま会話をしながら係員の指示に従って演習場を後にする。
圭吾は二人から目を離すと次の組をよんだ。案の定がちがちに緊張していて動きが鈍い。あの二人の後に戦うのはかなり気の毒だ。周りからの視線も心なしか暖かい気がする。
そういえばあの二人は切札ともなり得る魔法を使わなかった。
入学してからが楽しみだ。