9話 伯爵家の毒殺未遂犯を、風水スキルで暴きにかかる。
王都の名誉市民権を持っているからといって、王都に住まねばならない、ということではない。
結城たちが用のあるのは、ウィウ伯爵ル・ブライ。
ウィウ地方を治める貴族で、普段は領主館で生活している。
ウィウ伯の領主館は丘の上にあり、麓には農村がある。
結城たちはこの農村に入り、宿を取った。
その夜のこと。ウィウ伯と話すためには、どうすれば良いか、みんなで相談する。
エミリーが「忍び込んではどうかしら」と物騒なことを言う。
ウェンディは、「謁見を申し出るのが最善だよ」とのこと。
結城は、どちらも決め手に欠ける気がした。ここでリサが挙手する。リサは寡黙な性格で、風水鑑定するとき以外は、滅多に話さない。
そんなリサが発言しようということは。
「風水鑑定をしては?」
結城はうなずいた。
「そうだね。困ったときは風水だ。リサ、君が僕たちの風水鑑定をしてくれるか?」
サブ・マスターとして、リサを試そうというのだ。
リサはうなずき、瞳を青く輝かせる。スキル発動時は、このように瞳が青く輝くものだ。結城も、自らの力を使うときは、こうなる。
「人間運を上げる。人と縁を結ぶには、玄関を明るく照らすのが良い」
ウェンディが困った様子で言う。
「玄関といっても、出先だし」
結城も素早く風水鑑定を行った。
「この場合、宿の部屋の外でも大丈夫そうだ」
そこで女将さんから燭台を借り、扉前を照らすことにした。このまま一夜明かす。木造建物なため、火事にならないよう、交代で張り番するのは怠らず。
翌朝。朝食後、結城たちは宿の外に出た。
とたん、目の前を複数の人間が歩いて行く。三人の武装した護衛を引き連れた、一人の男。エミリーが、結城の耳元で言った。
「あたしが聞いた人相に、ぴったり。彼こそが、ウィウ伯よ」
結城が声をかける前に、ウィウ伯から、こちらに気づいた。
「ほう。珍しいな、旅の者か」
珍しいという。確かに、宿には、他に宿泊客はいなかったが。
そもそもこの宿の主も、本業は農夫のようだ。
結城は片膝をついて、跪いた。
「風水ギルドのユウキと申します、閣下。長旅の途上、閣下の素晴らしき村に宿を取らせていただきました」
ウィウ伯が目当てとは、言わないでおく。
風水鑑定による運気upは、人の心にも影響を与える。
ウィウ伯は、興味を惹かれた様子だ。
「風水とは、いかようなものか?」
何度も訊かれる質問なので、結城も答えるのが手馴れた。
「はい。開運のための環境学です。氣の流れを見ることで、衣・食・住・行動などを正すことができます。そうすることで、運気は上がり、悩みが解決されます」
「それは魔法から派生したものか?」
「いいえ。超自然の力を借りる点は同じですが、体系的には魔法とは異なります」
初めこそ、風水を魔法の親戚と位置づけていた結城。
しかし、これからの風水発展のため、最近は否定することにしている。
実際、風水と魔法は似てはいるが、体系的には別物だ。超自然的な力を使う点でこそ、共通してはいるものの。
「わしも風水とやらの力を借りたいのだが?」
「喜んで」
こうして結城たちは、ウィウ伯の領主館に招かれた。
さっそく謁見に使われる大広間で、結城はウィウ伯の風水鑑定を行うことに。
しかし、その前に尋ねねばならないことが。
「閣下。失礼ながら、お悩みを伺わねば、風水鑑定は行えません」
悩みを聞かずとも、運気を見たり、上げたりすることは可能だ。ただし、精度の高い助言をするためには、事前に悩みを聞いておきたい。
一瞬、ウィウ伯は顔をしかめた。会ったばかりの旅人に、個人的なことを明かすのは、躊躇われるのだろう。
が、最後には、悩みの解決を優先したようだ。
「春の季節に入ってから、わしの毒見役が、すでに4人も殺されているのだ」
「閣下のお命を狙って、何者かが食べ物に毒を仕込んだと?」
「無論だ。そのたび、厨房で働いている者たちを解雇しているのだが……一向になくならん。どうやら、毒殺を企む犯人は、わしの近衛兵の中にいるようだ」
(どうりで、ウィウ伯の運気がマイナス数値なわけだ。マイナス54とある)
ウィウ伯の運気を上げることで、毒殺を阻止することも可能だが。もっと劇的な結果を得る方法がある。
「かしこまりました。毒殺犯を、捜し出してみせましょう」
「失敗は許されんぞ、風水ギルド諸君」
「はっ。閣下、さっそくお願い申し上げます。近衛兵たちをお呼びしていただいても?」
「呼び出し、そして?」
「風水鑑定をします」
「なんと。それだけで、毒殺犯を特定できるというのか?」
結城は、後ろに控えていたリサを、手招きする。念のため、二人がかりのほうがいいだろう。それから、ウィウ伯に向かって、うなずく。
「はい。特定できます、閣下」




