8話 王都ルセウスに乗り込むため、困っている名誉市民を探す。
【風水ギルド設立から102日目 風水ギルド・メンバー数95人 拠点3か所──本部・支部2か所】
風水ギルドは、第2の支部を、クル町に設立した。
ロツペン町の本部も含めれば、3か所目の拠点となる。
結城は、第2支部のサブ・マスターに、レイを選んだ。
レイは風水ギルド設立12日目に入団した者で、もう古株といえた。実力も申し分ない。
天才肌のリサは、今回も選ばなかった。というのも、そろそろ本部を王都ルセウスに移そうと、計画していたからだ。
その場合は、ロツペン町の現本部が、第3の支部となる。
王都ルセウスの人口は、約25万人。
ギルド連合支部のあるペスカ町でも、人口は3万人弱だ。
つまり、これまでとは規模が桁違いなため、有能なサブ・マスターを傍に置いておきたい。もちろん、リサのことだ。
(もちろん、ウェンディとエミリーもだけど)
そんなある日のこと。ウェンディが説明した。
「ユウキくん。王都ルセウスにギルドを置くには、王都の名誉市民から許可を受ける必要があるよ」
この日、結城は午前中だけで、21人もの依頼者に、風水鑑定を行っていた。
このころになると、ロツペン町だけではなく、周辺の町村からも、依頼者が来ていた。
時には、山脈を越えてまで、やって来る人も。そういう人は、よほど困っているので、結城もより力を出した。
少し困るのは、ペスカ町からも、時おり依頼者が来ることだ。ペスカには、風水ギルドの支部がある。そこのサブ・マスターであるトムには、悪い気がする。
「ふうん。ルセウスの名誉市民というのは?」
「簡単に言ってしまえば、廷臣かな。王都の市民権を持った、貴族や騎士のこと」
(上流階級というわけか)と、結城は思った。
結城は、平民の力になりたい。ただし、依頼者は選べないというわけだ。
ちなみに、ウェンディの狙いは、王を顧客にすることのようだ。
(まぁ、王様が顧客になったら、向かうところ敵なしだろうけど)
転生前の世界では、風水の始まりは、中国。あちらでは、戦争などでも風水の力が利用されていた。
たとえば、風水の基に『仙道五術』というものがある。これの達人だったのが、かの諸葛孔明だ。
「まずは、名誉市民の誰かの力添えを得ろ、ということだね」
「その通り」
しかし、これは難題だ。
結城は、風水に絶大の信頼を置いている。風水の力を示すチャンスさえあれば、どんな頭の固い者も、納得させることができる、と。
ただ、そのためには、風水を利用してもらわないといけない。
かつて、ロツペン町の勇者ギルドの人たちは、風水に懐疑的だった。しかし、風水の助力によって、モンスター退治に成功。以来、結城の顧客となり、それはいまも変わらない。
結城が唸っていると、ウェンディが提案した。
「名誉市民の中で、困っている人を見つけたら、どうかな?」
「その人のもとに行き、風水鑑定しましょうか、と言うのかい? 風水の押し売りみたいで、嫌だな」
「けれど、少しは強引にいかないと。王都進出なんて、夢のまた夢だよ」
結城は思う。これまでは、依頼者は向こうからやって来た。依頼者の第一号エミリーから、そうだった。
しかし、今回は、そうはいかないようだ。
(風水を広めることで、より多くの人たちの力になれる。そのためには、王都に本部を置くのが一番だ。やはり、『王都のギルド』の影響力は、強いから)
「わかった。けど、王都はただでさえ遠いよね」
馬に乗っても、6日の距離だとか。
「この距離の中、名誉市民から、困っている人を見つけられるかな」
「密偵が必要だね」
「……密偵って」
昼食を買いに行っていたエミリーが、戻ってきた。
瞬時に会話に入ってきて、
「密偵。あたしに任せて!」
こうして翌朝、エミリーはさっそく出発した。
「心配だ」
そう言う結城を、ウェンディは励ますように言う。
「密偵といっても、本当に敵国に行くわけじゃないから」
16日後、エミリーは無事に帰還した。
「エミリー、心配していたよ」
エミリーは草臥れた様子だったが、怪我などはしていなかった。
ウェンディが尋ねる。
「それで、エミリーちゃん。どうだった?」
エミリーは得意げに答えた。
「見つけたわよ、困っている名誉市民」
結城はうなずいた。
「なら、その人に、会いに行ってみよう」