最終話 風水ギルドは永遠に。
執政官グランが国庫に手を付けていたことを明らかにするため、結城はある作戦を実行することにした。
グランの犯罪を証明できるのは、ただ1人。
会計担当官を務めていた、ブルースという男だ。レラが見つけ出してくれた。
クース王のもとに、ブルースを連れて行くだけでも、効果は十分だろう。
だが、もっと決定的なことができる。
※※※※
アルバ軍がビス砦を奪還した、翌日。
夜も更けたころ、ブルースは、ある宿の部屋にいた。身の危険を覚え、自棄気味で酒を飲んでいると、ノックがあった。
「誰だ!」
そう怒鳴ると、宿の者だという。前払いした宿代のことで、問題があるというのだ。
ブルースはウンザリして、ドアを開けた。そこに立っていたのは、グランだった。
ブルースは叫んだ。
「お、お前!」
グランは抜き身の短刀を持っている。
「悪いが、死んでもらおう」
ブルースが後退する。
グランがブルースを刺し殺そうとしたときだ。
刀が一閃され、グランの右腕が斬り飛ばされた。
「ぐぁぁぁ!」
グランが激痛に呻きながら、跪く。視線を動かすと、そこにはリースがいた。
その隣には、クース王の側近の一人。
さらに奥には、結城の姿もある。
「貴様……これは罠だったのか」
結城が前に出て、答える。
「ブルースさんは、あなたの悪事を証明できる人物だ。そのことを知ったのは、つい半日前でしょう? その話を流したのは、風水ギルドなので。あなたが、ブルースさんの口封じをしようとするのは、分かっていた。普段なら、暗殺ギルドに依頼するところでしょう。しかし、いま暗殺ギルドは使えない」
勇者ギルドは、結城が渡した台帳を活用した。
結城との約束を守ったのだ。
そして、暗殺ギルド討伐に動いた。
暗殺ギルド・マスターのラークは、〈鬼門付与〉スキルによって、運気数値マイナス1万。勇者ギルドと対抗できる指示を出せるはずもない。
暗殺ギルドは壊滅に追いやられている。
結城は続ける。
「だから、あなたは自ら、口封じに動くしかなかった。そのことを、僕はクース王に伝えました。王は全てを見届けるため、側近を寄こしてくれましたよ。執政官グラン、あなたの負けだ」
グランは項垂れた。
別の部屋に待機していた衛兵がやって来て、グランを捕えた。
こうして、風水ギルドは勝利したのである。
翌日。結城はさっそく、風水ギルド本部を、再開した。
※※※※
かくして月日は流れる──。
アルバ国とバル国は、改めて和平条約を結んだ。バル国側から申し出て来たのだ。
和平条約が、アルバ国側に有利な内容となったのは、言うまでもない。
グランの消息は聞かない。死刑にされたのか、どこかの地下牢に繋がれているのか。
結城はもう、興味はなかった。
結局、リースは風水ギルド・メンバーにはならなかった。どこかに属する気はないという。リースらしい選択だな、と結城は思った。
リースとは友人なのだから、また会うこともあるだろう。
ビス砦奪還から、3か月後。
エミリーがついに、支部を任されることになった。
エミリーは、初期メンバーの1人だ。しかし、風水師としての才能はなく、なかなかサブ・マスターに昇格できなかった。
だが、エミリーは諦めず、努力を続けた。
そして、風水レベルを37まで上げたのだ。
エミリーが支部長を務めるのは、南方地域にあるレイズという町の支部だ。
旅立つ前日、エミリーはなぜか浮かぬ顔だった。
結城は心配になって尋ねた。
「どうしたの、エミリー? 支部長になるのが、嬉しくないみたいだ」
「そんな訳じゃないけど……ただ、レイズ支部に行っちゃったら、もうユウキと会えなくなるから」
「そんなことはないさ。僕たちは、同じギルドの仲間だ。いつでも会える。それに、僕もエミリーがいないと寂しいからね。レイズ支部に遊びに行くよ。エミリーも、いつでも帰って来てくれ」
エミリーは顔を輝かせた。
「うん。ありがと、ユウキ」
エミリーを送り出してから、数日後。
ようやく、王宮担当を任せられそうな風水師を見つけた。宮廷勤めを嫌がっていたリサが、喜ぶだろう。
ところが、報告を受けたリサは、後任と変わるのを断ってきた。
いったん本部に戻って来て、リサは結城に言ったものだ。
「師匠。私は、王や家臣たちに信用されている。今更、後任には託せない」
「そうだね。じゃ、これからも頼むよ。リサなら安心だ」
それから、2か月後。
ギルド脱会(卒業)者に対しての、送別会が開かれた。
レラが、リーグ族に戻るときが来たのだ。もともとレラの風水ギルド入りは、一時的なものだったのだから。
送別会には、リサやエミリーも出席した。トムも、自分の支部を部下に任せて、駆けつけてくれた。
「ユウキ殿。お世話になりました」
「こちらこそ。レラの偵察能力には、何度も世話になったね」
「ところで、ボクの風水レベルは、どれくらいです?」
「42だね。もう一人前の風水師だ。リーグ族も安泰だ」
それから、しばらくして、また結城が寂しくなることがあった。
セシリーが故郷に戻ることになったのだ。
セシリーの願いは、風水の力で故郷の領民を助けることだった。その時が、ついに来たのだ。
「セシリーには、何度も命を助けられたね。とくに〈零〉ダンジョンの攻略では」
「良い思い出です。……マスター、あの、わたし、また戻ってきても?」
「ああ。大歓迎だ。君は、いつまでも風水ギルド・メンバーだよ」
こうして、様々な人が、新たな人生へと歩み出して行く。
ある日のこと。
結城は、風水ギルド本部で、書類にサインしていた。
本部の営業時間は終わっていたので、ウェンディと2人きりだ。
結城は、天気の話でもするように言った。
「ウェンディ。僕は、別の世界から転生してきたんだ。理由はよく分からないけど。女神様あたりの、気まぐれかな」
すると、ウェンディは微笑んだ。
「それなら、その女神様に感謝しないと」
「どうして?」
「おかげで、ユウキ君と出会えたから」
結城も微笑みを返した。
「ああ、そうだね」
───それから先も、風水ギルドは、繁栄を極めたのだった。
【end】
最後まで、お読みいただきまして、ありがとうございました。
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別作品で、
『Fランク戦士ですが、魔王の娘と結婚しました。新妻の魔王の娘さん、冒険者ギルドに入ってみたら、無双しまくりです』
というのも連載しています。下記リンクより飛べますので、よろしくお願いいたします。
繰り返しになりますが、
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