7話 風水ギルドの勢力拡大のため、まずは第1の支部を設立する。
【風水ギルド設立から75日目 風水ギルド・メンバー数50人】
ギルドの勢力拡大には、支部数を増やすことが必要となる。
支部を増やすためには、本部がある程度、力を持たねばならない。
結城は、ロツペン町にある風水ギルド本部の状態を見て、考えた。
支部を設置する時期が来た、と。
メンバー数が増えたので、半数ほど、支部に回せると判断したからだ。
十日後。
ロツペン町の隣町ペスカに、風水ギルドの支部・第1号を置いた。
この支部を任せるサブ・マスターは、トムだ。
結城は、トムにするかリサにするか、最後まで迷った。
実力主義でいくなら、リサ。年功序列でいくなら、トム。
リサとは、風水ギルド設立45日目に、入団したメンバーだ。
18歳の、エルフ。エルフの中では、まだ幼年である年齢。そのため外見は、幼い女の子だった。耳の特徴がなければ、女児と見間違う。
リサもトムも、結城の〈スキル開発〉によって、〈風水定位盤〉・〈龍視〉・〈五行極め〉のスキルを会得した。
同時に、風水師のレベルも表示された。リサがレベル72と高く、トムはレベル25と、まずまずだった。
ちなみに、結城自身の風水師レベルは、∞、つまり『数値では測れないレベル』だ。
とにかく、リサは学習能力も高く、風水鑑定の知識も、早く吸収していった。サブ・マスターとして、純粋に実力を取るなら、リサ。
それでも、結城はトムを選んだ。
年功序列というよりかは、人望の問題。トムは設立当初からのメンバー。すでに50人となる風水ギルド・メンバーたちから、尊敬の念を勝ち取っている。
それが決め手となった。
サブ・マスターのトムを補佐するリーダー役は、設立2日目に入団したロンに任せる。
これに不満だったのが、エミリーだ。
「あたしのほうが、ロンさんより古くからいるのよ。それこそ、風水ギルドが誕生する前から。オリジナル・メンバーよ」
風水ギルドが、ギルドとしての許可を得る前のメンバー。
つまり、結城、ウェンディ、エミリー、トムのことは、一部でオリジナル・メンバーと言われている。
「うん、そうだね」
「本部の風水ギルド看板を作成したのも、あたしだし」
「うん、そうだね」
ペスカ町の風水ギルド支部の看板は、看板類を作成するギルドに頼んだ。
ただ、ロツペン町の風水ギルド本部にある看板は、エミリーが作ってくれたものを、いまでも使用している。
破損でもしない限りは、エミリーの看板を替えるつもりはない。
「それなのに、トム君の補佐役は、あたしじゃないの?」
結城は困ってしまった。
エミリーの風水ギルドへの貢献は、計り知れない。順位付けなどしたくはないが、それでもするなら、ウェンディの次点だろう。
が、エミリーには、風水師としての素質が、あまりない。
最低限必要なスキル〈龍視〉も、開発こそできたが、風水師レベルでいえば、まだ8。
訓練を積んでの、この数値だ。
スタート時は風水師レベル25だったトムも、いまは38まで上がっている。
サブ・マスターで、せめて風水師レベル30。リーダーでも、レベル20は欲しいところ。
エミリーは、そのレベルにまだ達していない。
それでも、他のメンバーに比べれば、高いほうだ。そもそも、メンバーのうちで、〈龍視〉だけでも会得できた者は、全体の3割なのだから。
ちなみに、スキル開発に失敗した者でも、仕事はちゃんとある。九星の位置をアナログで調べたり、依頼者が風水師の指示通りに行っているか確認したり。
結城が困っていると、ウェンディが来た。
ウェンディは風水師になるつもりはなく、結城の〈スキル開発〉も受けていない。事務職で風水ギルドを支えたいから、とのことだ。
風水師のスキルがなくとも、ウェンディが結城の右腕であることに、変わりはない。
そんなウェンディは、励ますようにエミリーの肩を叩いた。
「ユウキくんは、エミリーちゃんに期待しているんだよ。近い将来、風水ギルドの本部を移すとき、エミリーちゃんにも傍にいて欲しいから」
「え、そうなの? それなら、いいわ。そうね。先のことを見据えているのよね」
エミリーの機嫌が直ったので、結城はホッとした。
結城はさらに考える。
やはり、風水ギルドの本部は移すことになるだろう、と。
ロツペン町は居心地が良いが、中規模な町。風水ギルドを、この国全体へと広めるためには、本部を移すのが妥当だ。
数多のギルド本部がある、王都ルセウスに。
たとえば、ロツペン町の勇者ギルド。彼らも一つの支部に過ぎない。勇者ギルドの本部があるのは、やはり王都ルセウスなのだ。
ただし、弱小ギルドでは、王都に本部を移すことなどできない。
いまは王都に乗り込むため、力を蓄えているところだ。
(その日は近そうだ)