68話 ビス砦の奪還。
ビス砦への侵入は、簡単にいった。
運気数値10万をもってすれば、物資を供給する隊に潜入するのは、簡単なことだった。
潜入後は、バル軍の鎧を運良く見つけて、装着。
結城はそのまま、制圧された砦内を適当に歩く。
もとはアルバ国の砦なので、設計図は見せてもらってある。
おそらく、指揮官は最上階にいるだろう。あとは運任せだ。
5分後、ついに目当ての男を見つけた。バル国の侵攻軍の総指揮官だ。万の兵を率いる万騎長の一人だという。
このビス砦を足掛かりにして、アルバ国内へ攻め入る計画だ。
結城は、時間を無駄にはしなかった。すぐさま、総指揮官に〈鬼門付与〉スキルを発動。
総指揮官の運気数値がマイナス1万になったのを見届けてから、結城はその場を後にした。
だがビス砦からの脱出前に、〈開運天国〉の時間切れとなった。
結城の運気数値が、プラス10万から、プラス856に戻る。
プラス856もたいしたものだが、まわりにバル軍兵がいる所では、心もとない。
結城は、目立たないように歩きつつ、外を目指した。
が、途中で呼び止められてしまう。
「おい、そこのお前。こんなところで、何をしている? どこの配属だ?」
結城を呼び止めたのは、士官らしき男だ。
結城は、とっさにスキルを発動した。
まず、〈運気提供〉スキルを発動。通常は、パーティの仲間にしか使えないスキルだ。が、今回はピンチだったためか、思いがけず使うことができた。
これで、目の前にいる士官の運気数値を、プラス1万にした。
続いて、〈運気交換〉スキルを発動。
結城の運気数値と、士官の運気数値を、交換したのだ。これによって、士官の運気数値が856。
そして、結城自身の運気数値は、プラス1万となった。
プラス10万ほどではないが、プラス1万も、かなりのものである。
士官は、重要な要件を思い出したらしく、急ぎ足で立ち去った。
結城にとって、運の良い展開だ。さっそく、運気数値プラス1万が効いたのだ。
30分後、結城は無事に、ビス砦を脱出した。
ビス砦から数キロ離れたところに、アルバ軍の陣営がある。これはビス砦を奪還するための、千の軍勢だ。
そこまで結城は移動した。
エミリーたち風水ギルドの仲間が、出迎えてくれた。
結城は、奪還軍の指揮官のもとに向かった。ウィウ伯である。
かつて、結城の風水鑑定によって、毒殺未遂犯を見つけた。ウィウ伯とは、それ以来、友好関係にある。
執政官グランは、風水ギルドだけで、ビス砦を取り戻すよう要求してきた。
しかし、それは現実的ではない。そこで結城は、個人的にウィウ伯に頼み込んだのだ。ウィウ伯は、手勢を動かしてくれた。
アルバ国の砦を取り戻すのだから、王も大目に見てくれるだろう。
グランは良い顔をしないだろうが。
「閣下。準備は整いました。ビス砦を制圧しているバル軍ですが、総指揮官の指令は、失敗ばかりとなります。あまりに不運な状態にあるからです。ですので、奪還を開始するならば、今このときです」
「うむ、君を信じよう」
すでにウィウ伯は、鎧に身を包んでいる。
自らの馬に騎乗し、自軍の先頭まで進んだ。
「皆の者、よく聞け! クース王のため、ビス砦を取り戻す! 我に続け!」
ウィウ伯の軍が突撃したあと、結城たち風水ギルド・メンバーだけが取り残された。
結城のもとに、伝書鳩が飛んで来る。
それは、レラからの密書だった。
レラは王都に残り、グランの身辺を探っていたのだ。
「レラがやってくれたよ。グランの動機を掴んだ」
エミリーが小首を傾げる。
「動機って、なぜクース王を裏切って、バル国に付いたのか、ということよね?」
「ああ。グランは、国庫に手を付けていたんだ。しかし、その事実が密告された。クース王は、グランを罰するつもりだ。だが、グランは執政官という身分。確実な証拠を提示しなければ、たとえクース王の処断でも、家臣団から非難の声が上がる可能性があった」
「クース王は側近を使って、確実な証拠を集めさせていたのね」
「ああ。グランは、その動きを知った。自分が失脚する運命と、ね。それで国を裏切ることにしたわけだ」
結城は、考える。
動機は分かった。
あとは、グランを倒すだけだ。




