66話 急転直下。
王都ルセウスに帰還。
ウェンディたちが出迎えてくれた。
結城は、リースのことを紹介する。
ウェンディが、朗らかに入団登録書を差し出して来た。
リースは片手を突き出す。
「いや、悪いが、風水ギルドに入るつもりはない」
「仮入団期間もありますよ?」
意外と押しの強いウェンディである。
最終的に、リースは仮入団の書類にサインすることになった。
これで、仮・風水ギルド・メンバーだ。
その後、結城は一人で、勇者ギルドに向かった。ギルド・マスターのローマンと会う。台帳を差し出した。
「暗殺ギルドに依頼した者たちが、記されています。暗号の解読表も添えておきました。有効に活用してください」
ローマンはすぐには、台帳を受け取らなかった。
「つまり、依頼者たちに圧力をかけて、暗殺ギルドを叩けるように持っていけと?」
「勇者ギルドも、暗殺ギルドは殲滅させたいという話でしたので」
ローマンは迷っていたが、最後には台帳を受け取った。
「勇者ギルドとして、使命を果たすときが来たのかもしれんな」
それから結城は、暗殺ギルドの拠点が、城郭都市ルスにあることを話した。住所を伝えてから、結城は勇者ギルドを後にした。
ラーク達は、すでに拠点を移動しているはずだ。
それでいい、と結城は思う。
勇者ギルドによって、すぐにラークが殺されてしまっては、意味がない。
〈鬼門付与〉スキルによって、ラークの運気数値はマイナス1万。その状態で、暗殺ギルド全体への指示を送ってもらわねば。
つまり暗殺ギルドの舵取りを、不運からミスってもらう。
それが結城の、とりあえずの戦略だ。
さらに暗殺ギルドの拠点を、一応は伝えることで、勇者ギルドも動き出しやすくした。
一度、動き出せば、勇者ギルドも本格的に、暗殺ギルドの討伐に乗り出すだろう。
(問題は、執政官グランだ)
ローマンに渡した台帳だが、実は一枚だけ破いておいた。
風水ギルドへの殲滅依頼の箇所だ。黒幕がグランだったことは、勇者ギルドには知られたくなかったのだ。
グランとの決着は、結城自身が付けねばならない。
結城は風水ギルド本部に戻り、考えた。
グランを失脚させるのか。または、もっと直接的な行為に及ぶのか。
結城は思う。
風水ギルドは、よく成長してくれた。
結城一人で、道端からスタートしたのだ。
最初の依頼者が、エミリーだった。
不動産を借り、ギルドまがいのことを始めた。それから、何人もの仲間ができた。
支部を増やし、ついには王都へと進出。
その中で、エルフのリサや、リーグ族のレラも仲間となった。
剣士のセシリーや、リースも入団してくれた(仮、だが)。
(風水ギルドは、僕がいなくても、もう平気だろう)
その夜、結城はウェンディを呼んだ。
風水ギルドのため、もっとも献身的に働いてくれたのが、彼女だ。
「ウェンディ。これまで、世話になったね。君がいなければ、僕は風水師を始めることもできなかった」
「ユウキ君。様子が変だよ、大丈夫?」
「ああ。僕は大丈夫だ」
翌朝。結城は単身、王宮へと向かった。
グランと、差しで話すつもりだ。
暗殺ギルドへの依頼の件を出して、グランを追いつめる。
それでグランがどう出るか、だ。
結城の計画は、単純だ。
グランに、結城を殺させる。そうすれば、グランは殺人罪で逮捕されるだろう。
もう少し、穏便な手もあるかもしれない。だが、相手は執政官だ。王の次に権力を持つ。
暗殺ギルドが失敗したと知り、もっと直接的な方法で、風水ギルドを潰しにくるかもしれない。
その前に、結城は手を打たねばならなかった。
風水ギルドと、そこに属する仲間たちのために。
いまこそ、ギルド・マスターとして、最後の仕事をするときだ。
結城は王宮を進んで行った。
そのとき、顔見知りの衛兵が、血相を変えて走って来た。
結城は一瞬、企みを知られたかと思った。
だが、違った。
「ユウキ殿、大変ですぞ! バル国が攻め込んで来ました!」




