63話 〈無機物鑑定〉スキル。
結城は、状況を整理した。
「つまり、あなたは暗殺ギルドに属していた上、ギルド・マスターの弟子だった、というわけですか?」
リースはうなずいた。
「簡単に言えば、そうなる。一応、言っておこう。オレは暗殺の仕事を請け負ったことはない。腕を磨いたところで、脱ギルドした。それが2年前のことだ。バカな叔父上が、オレの古巣に、オレの暗殺を依頼するとは思わなかったがな」
結城はひとまず、リースの言葉を信じることにした。
前回の〈開運天国〉発動時に出会ったのが、リースだ。暗殺を生業にしていた者を、引き付けさせるとは思えない。
「なぜ、暗殺には手を染めない、と考えを変えたんです?」
するとリースは、面白そうに笑った。
「いや、考えなどは変えていない。初めから、技量だけを学ぶつもりだったんだからな」
「……それなら勇者ギルドとかでも、良かったのでは?」
しかし、リースの考えは違った。
リースの話は、こうだ。
勇者ギルドが、仮想敵とするのはモンスターだ。しかも戦闘状況は、パーティを組んでのものが多い。
リースはモンスターと戦うつもりも、パーティに組み込まれるつもりもなかった。
また、勇者というものは、少なからず誇りを求める。敵が人間のとき、騙し討ちなどは行わない。
よって、そんな技術も学べない。
「別に、誰かを騙し討ちしようと思ったわけじゃない。しかし、その技術を得ていれば、自衛に役立つだろう」
結城は思った。
リースの考え方は、実に独特のようだ。男装しているのにも、それは通じる。良くも悪くも、この社会に馴染んではいない。
暗殺ギルド・マスターは、右足を切断され、倒れている。
リースに刀の切っ先を突き付けられているため、さすがに抵抗はしてこない。
だが、抵抗の代わりか、嘲笑って来た。
「飼い犬に手を噛まれるとは、このことだな」
「オレは、貴様の飼い犬になった覚えはないがな」
結城は、ギルド・マスターに尋ねた。
「暗殺ギルドは、風水ギルドの殲滅依頼を受けたそうだね。依頼者は、どこの誰だ?」
ギルド・マスターは、結城を見やる。
「なるほど。貴様は、風水ギルドのマスターか。この俺が、大人しく話すと思うのか?」
「……いや、思わない」
結城は一考した。
いくらギルド・マスターの運気が悪かろうと、口を滑らせる確率は低い。
これが並みの暗殺者なら、その可能性もあった。だが、この男はギルド・マスターだ。マイナス1万で、そこまで期待するのは、無理がありそうだ。
結城は、ステータス画面を表示。さらに、会得が可能なスキルのリストを表示した。
(何か、使えるスキルで、会得できるものはあるだろうか?)
スキル獲得のために使えるポイントは、現状では824。
〈鬼門付与〉スキルを会得するために、3600も使ってしまった。
ちなみに、最もポイントを使わざるをえなかったのが、〈開運天国〉スキル会得時の、5200だ。
(824ポイントで、会得できるスキルに、たいしたものはないか)
風水師として目覚めたとき、すでに持っていたスキルに、〈運気交換〉がある。
あまり使いどころのないスキルだが、これでさえ会得しようと思ったら、500ポイント必要となるのだ。
(何か、風水ギルド殲滅の依頼者が分かるようなものは──)
結城は、あるスキルに注目した。
(もしかすると、状況を打開できるか?)
結城は、目を付けた〈無機物鑑定〉スキルを、さっそく会得した。会得に使用したのは、770ポイントだ。
このスキルは、無機物の風水鑑定ができるスキルである。
さすがの結城も、これまでは無機物の運気など鑑定できなかった(鑑定する必要もなかったが)。
しかし、今ばかりは、このスキルが役に立つかもしれない。
「ものは試しだ。さっそく使ってみよう、〈無機物鑑定〉スキル発動」




