61話 唸る〈開運天国〉スキル。
リースが先頭で突入しようとする。
すると、リースの運気数値が落ちだした。
結城は、ここは出し惜しみする場面ではない、と考えを変えた。
〈開運天国〉スキルを発動。
結城の運気数値がプラス10万となる。
それからリースに、自分が先頭で行く、と主張した。
リースは渋々ながらも、受け入れる。
暗殺ギルドの拠点に辿り着けたのは、結城のスキルのおかげだ。そこの点は、リースも理解しているのだろう。
拠点の建物は3階建て。表通り側と路地裏側に、一つずつ出入口がある。
結城は、路地裏側の出入口に向かった。ドアに触れる。施錠されていたはずだが、ふいにロック機構にガタが来たらしい。
ドアは簡単に開いた。
結城が屋内に入り、リースとセシリーが続く。
1階には、見張りがいた。暗殺ギルドの拠点なのだから、敵襲には備えていて当然だ。
しかし、結城たちが侵入したとき、見張りはよそ見をしていた。
通路の隅を、ドブネズミが駆けて行ったためだ。
見張りはネズミを嫌悪していたので、そちらに注意が行ってしまったのだ。
それが見張りの運の付きだった。
リースが、結城を追い抜いて、見張りの懐内に飛び込む。刀が一閃され、見張りは命を落とした。
リースは、見張りの死体を見下ろしてから、結城に尋ねた。
「この見張りは、不運だったな。〈鬼門付与〉スキルとやらを使ったのか?」
結城は答える。
「いえ、その必要はありませんでしたよ。僕はいま、運気数値プラス10万ですからね。だから、僕にとっての幸運が、連発する。それによって、周囲の者が不運になることもある」
見張りがよそ見していたことは、結城にとっては、とても運の良いことだった。
そのため、見張りはよそ見をする状況に、陥っていたのだ。
1階には、3部屋あった。見張り以外に、人はない。
セシリーが不思議そうに言う。
「マスター。拠点にしては、人が少ないですね」
「拠点といっても、暗殺者たちは長居をしないのだろうね。いわば、この建物は暗殺者たちへの指令所だ。それなら要員は最小限で済む」
指令を与えるのが、ギルド・マスター本人だと良いのだが。
結城の運気数値10万をもってしても、遠くにいるギルド・マスターを、この場所まで一瞬で移すことはできない。
結城を先頭にして、階段を上がり、2階へ。
2階で初めに確認した部屋は、無人。次の部屋にも、人はいない。
ふと結城は、廊下のあるドアが気になった。このドアの先にも、部屋があるはずだ。
しかし、建物の規模からして、その部屋は手狭だろう。
それこそ、一畳ほどだ。
(そんなに狭いとは、何の部屋だろう?)
一考してから、結城はハッとした。
それから、リースとセシリーに小声で言う。
「これは、トイレだ」
ふいにドアが開き、男が出て来た。
男は結城たちを見て、ギョッとした。声を上げる間もなく、リースの刀が一閃される。
男は喉を斬られて、絶命した。
結城たちが侵入したとき、この男は不運なことに、腹を下したのだろう。それでトイレに籠っていた。
もちろん、結城の運気数値の力だ。
リースが、刀の血を払いながら、言う。
「残りは3階か」
セシリーが、ある疑問を口にした。
「仮にギルド・マスターがいたとして、どう特定しますか?」
結城も、そこは気になっていた。
運気数値がプラス10万なので、ギルド・マスターを見れば、『何となく』で特定できるはずだが。
すると、リースが言う。
「問題ない。ギルド・マスターの顔は、オレが知っている」
結城の中で、これまで抱いていた疑念が、確定的となった。
「リースさん。あなたは──かつて、暗殺ギルドにいましたね?」
リースが肯定も否定もする前に、上階から物音がした。
リースが舌打ちする。
「侵入に気づかれたらしい」
セシリーが小首を傾げる。
「マスターの運気数値が10万だというのに?」
結城は、考えを述べた。
「上階の暗殺者が、途轍もない技能を有しているのかもしれない。僕の運気数値に対抗して、僕たちの気配に勘付くほどに」
(だとするなら、そいつはギルド・マスターの可能性が高い。運がいいぞ)




