60話 暗殺ギルドの拠点を見つけ出す。
なぜ暗殺者は、拠点住所のメモ紙片を持ち歩いていたのか。
結城の結論は、こうだ。
暗殺ギルドの拠点は、定期的に移動する。先ほどの暗殺者は、新しい拠点の住所をメモと言う形で、受け取った。
通常なら、住所を記憶して、メモは燃やすだろう。
ところが、暗殺者はウッカリしたのだ。
挙句、結城の馬に轢かれ、逃走のさいに、メモ紙片を落としてしまった。
結城の〈鬼門付与〉スキルによって、運気数値がマイナス1万だけのことはある。
運気が下がれば、当人の頭の回転なども鈍くなるわけだ。
結城、セシリー、レラ、リースは、馬を公営厩舎に預けた。
レラが問いかける。
「さっそく、メモの住所まで行きます? 先ほどの暗殺者が、メモを落としたことに気づいたかもしれません」
リースが苦々しそうに言う。
「拠点に、警告されると厄介だな」
結城は答える。
「その心配はありませんよ。この暗殺者の運気は、最悪ですから。拠点に警告しに行こうとしたら、運悪く事故って、死にかねない」
結城たちは、メモの住所まで移動した。
外から見た限りでは、ただの三階建ての建物だ。規模は、風水ギルド本部の3分の1くらい。
リースが刀を抜きながら言う。
「個々の暗殺者に指示を出すだけなら、たいした規模はいらないからな」
「リースさん。突入するつもりですか?」
「ああ。運良くギルド・マスターがいてくれたら、ソイツを斬るだけで、問題解決だからな」
確かに、ギルド・マスターを失ったギルドは、衰退する傾向がある。暗殺ギルドも、その可能性は高い。
「……しかし、リスクがありますね。少し待ってください」
セシリーが、結城に尋ねる。
「マスター。〈鬼門付与〉スキルは、何人にまで使えるのですか?」
「同時に使えるのは、3人まで。今は、昨日からの暗殺者だけに使っている。にしても、これから、対峙する暗殺者が増えていくわけだよね。『暗殺者』という呼び方だと、ゴッチャになるな」
「昨日からの暗殺者は、〈片足〉と名付けては? 片足を骨折しましたからね」
現在は、片足の骨折は治癒していたが。
「では、そうしようか。とにかく、〈片足〉にプラスして、あと2人まで〈鬼門付与〉を使える。また、〈片足〉への〈鬼門付与〉を解除すれば、新しい3人に〈鬼門付与〉を使えるわけだよ」
ただし、〈鬼門付与〉スキルにも制約がある。
〈鬼門付与〉を使うときは、標的とする相手を、視認している必要があるのだ。
ようは、目の前にいてくれないと〈鬼門付与〉スキルは使えない。
「とりあえず、〈片足〉への〈鬼門付与〉は解除しないでおこう」
結城の迷いどころは、〈開運提供〉スキルだ。
これは、パーティの仲間一人だけに、運気数値プラス1万を与えるスキル。
つまり、セシリー、レラ、リースの中から、1人を選ばねばならない。
ちなみに、この3人の中では、レラの運気数値プラス6521が、飛び抜けている。
昨日使った〈開運提供〉のプラス1万が、まだ残っているためだ。
(レラは、このままでいいかな。となると、セシリーか、リースさんか)
リースの戦闘力を考え、セシリーに〈開運提供〉を使うことにした。
セシリーの運気数値が、プラス1万となる。
「レラ。拠点の偵察を頼む。ただし、危険だと思ったら、すぐ離脱してくれ」
「了解です」
レラを送り出し、結城、セシリー、リースは待機する。
10分ほどして、レラが戻って来た。
「拠点の建物は、表通りと路地裏に、出入口が一つずつあります。表通り側は、使われていません。路地裏側の出入口は、使われているようです。偵察中も、1人、入って行きました。〈片足〉ではありません」
リースが有無を言わせぬ口調で言う。
「ユウキ。オレは、単身でも突入するぞ」
結城は覚悟を決め、ブロードソードを鞘から抜いた。〈零〉ダンジョン最深部で入手した、ブロードソードである。
前日は装備せず、宿に置いていたものだ。今日は戦闘を覚悟し、装備していた。
「わかりました。セシリーと共に付き合いましょう。レラは表で待っていてくれ。臨機応変で行動するんだ」
レラがうなずいた。
結城はひとまず、〈開運天国〉は温存することにした。一度発動すると、10時間使えなくなるからだ。
リースは満足げに言った。
「では、突入だ」




