6話 〈開発スキル〉を使用し、メンバーも風水鑑定スキルを使えるようにする。
【風水ギルド設立から5日目】
注文していたバッジが、届いた。
「ウェンディ。十個もあるけど?」
結城がそう問いかけると、発注を担当したウェンディが答えた。
「とりあえず、かな。風水ギルドは規模の拡大を目指しているよね。つまり、各地に支部を設立していく。そのときは、ギルド・メンバーも何百人となるはず。けれど、まずは十人分から」
「なるほど」
バッジに刻まれているのは、風水ギルドの紋章だ。これのデザインは、エミリーが担当した。
このバッジを、風水ギルド・メンバーは、身につける。
当然ながら、バッジの紋章は、ギルドごとに異なる。現代日本でいうところの、社章だ。
いまのところ、風水ギルドのメンバーは、結城、ウェンディ、エミリー、トム、ロンの五人。この時点で、バッジは五人分、多めに造られたわけだ。
ロンというのは、風水ギルドがギルドとして正式に認められた翌日に、入団を希望してきた男だ。元は商人ギルドにいた。42歳なので、風水ギルドでの最年長。
「風水ギルドの支部を作る。それを可能にするには、支部を任せられる者が必要になるね」
一般的に、ギルドには階級制度がある。ギルドの長は、ギルド・マスターと呼ばれる。結城が、そのギルド・マスターだ。
ギルド・マスターの下には、サブ・マスターがあり、その下にはリーダーと続く。リーダーの下は、ルーキーというところ。
支部を任せられるのは、サブ・マスターの役職についた者だろう。
ただし、いまはサブ・マスターどころか、リーダーも不在だ。
エミリーもトムも、熱心に風水を学んではいる。ただ、結城のように、龍脈の流れを『視』たり、人々の五行を見極めたりはできない。
結城の風水鑑定スキルは、やはりチートに値するようだ。
(僕ほどではなくとも、少しは風水鑑定スキルが使えると、一気に上達するんだけどなぁ)
「ウェンディ。誰かに、特定のスキルを使えるようにさせるためには、どうすればいいんだろう?」
ウェンディは考え込んでから、答えた。
「そういうのは、魔法使いが詳しいかも。魔法使いギルドに相談してみたら?」
結城はさっそく、ロツペン町の魔法使いギルドを訪れた。
魔法使いギルドともなると、ロツペンにあるのは支部。本部は王都にある。そもそも大手ギルドの本部は、王都にあるのが普通らしい。
結城の相談に乗ってくれた魔法使いは、答えた。
「それなら、〈スキル開発〉のスキルが必要ですね」
「〈スキル開発〉ですか?」
「あなたが〈スキル開発〉を、誰かに使うとします。その人は、あなたが選んだスキルを、使えるようになります。これを『開発』といいます。ただし『開発』できるのは、あなたが事前に会得しているスキルに限りますがね」
また、〈スキル開発〉自体は、『開発』できないらしい。
「〈スキル開発〉が使える者は、それこそ限られています。一千万人に一人というくらいです。あなたもお持ちではないでしょう」
結城がいま、どのようなスキルを持っているかは、ステータス表示で確認できる、とのこと。
結城は風水ギルドに戻り、ウェンディに訊いた。
「魔法使いの言い方だと、ステータス表示は、誰でもできるみたいだ」
「うん。みんな、物心ついたときに覚えるけど。ユウキ君は違ったの?」
結城は、出自を話すとき、僻地の村から来たことにしていた。
もっとも信頼しているウェンディ相手でも、別世界から転生した、とは打ち明けられない。
「僕の村では、誰もステータス表示を使えなかったんだ」
「ふうん。でも、心配しないで。コツさえ掴めば、簡単だから」
三十分ほどウェンディに教わるだけで、結城もステータス表示の方法をマスターした。
さっそく、自分のステータスを表示する。
ステータスを見ることができるのは、当人だけ。また、ほとんどの人は、スキルを身に付けずに、一生を終えるらしい。
そのため、ステータスを表示する機会が、そもそもないとか。
(さてと。僕のスキルは、いくつあるかな)
まず、風水定位盤を表示するスキル。正式なスキル名称は、〈風水定位盤〉とある。
龍脈を『視る』スキルの名称は、〈龍視〉。
人の五行を見極めるスキルは、〈五行極め〉。
ほかに、〈運気交換〉、〈スキル開発〉、〈耐毒性up〉、〈防御力down〉があった。
脳内で指定すると、スキルの内容が解説される。とはいえ、ほとんどが名称のままだが。
〈防御力down〉とは、風水鑑定を行うと、自動で発動しているようだ。
文字通り、結城の防御力が下がる。ただ、もともと防御力は0に近い身なので、たいしたマイナス要因ではない。
以前、聞いた話では、一般市民は攻撃力も防御力も、ほぼ0。
ようは、生身。勇者や戦士は、何百、ときに何千となるそうだが。
(パーティでいえば、僕は完全に、後方支援タイプだからなぁ)
前回、勇者ギルドの者たちの運気を上げ、勝利に貢献した。これこそが、結城の求められる役割だろう。
一方で、〈耐毒性up〉があるのは、面白い。少なくとも、毒には、強いらしい。
(毒殺されずに済むのは、嬉しいかな)
ギルドの規模が大きくなれば、敵も増えそうだからだ。
そして、なにより〈スキル開発〉。
(これがあるということは、僕は、一千万人に一人だったようだ)
スキル内容を確認。
『任意の人に対し、特定のスキルを開発し、使えるようにさせることができる』スキル。
ただし、『開発』できるスキルの条件は、二つ。
その一、『開発』する側(結城)が、すでに持っているスキルであること。
その二、『開発』される側 (エミリーやトム)が、事前にそのスキルの素質を持っていること。
また、『開発』に成功しても、結城のレベルには到底及ばないそうだ。
(『開発』した上で、僕が訓練する。素質があれば、数か月で、サブ・マスターのレベルまで育てられるかも)
さっそく『開発』が可能か確かめるため、トムとエミリーを呼んだ。