56話 第二の暗殺標的を特定する。
魔裂弾を投げ込んだ暗殺者が明らかになったところで、次なる計画を立てることになった。
セシリーは、暗殺者を取り押さえ、尋問してはどうか、と提案。
しかし、結城は反対した。
「どうかな。相手は、暗殺ギルドに属するプロだ。尋問しても、口を割るとは思えない」
拷問をしたら別かもしれないが、結城としては、その手段は取りたくない。
セシリーとレラは、ギルド・マスターの結城の言葉に忠実だ。
問題は、リースだ。
リースが、どういう選択を取るか。
結城が問いかける眼差しを向けると、リースはうなずいた。
「確かに、連中は拷問にも耐える訓練を受けているだろう。取り押さえない、というユウキの判断は正しい」
(……拷問は前提としているわけか。ここらへんが、風水ギルドとの考えの違いだね)
結城は、つくづくそう思った。
基本的に、風水ギルドは平和主義だ。敵対者が出て来て、戦わねばならないのなら、行動は起こす。
しかし、それも相手の運気を落として、破滅させるというもの。好戦的な作戦とは言えない。
結城は、これが風水ギルドのあり方だと思っている。
ギルド・マスターの考え方は、そのギルドの方向性となる。結果的に、風水ギルド・メンバーは、全体的に平和的な者たちが揃っている。
レラが尋ねる。
「では、どうするんです?」
「尾行しよう」
結城の提案に、リースは反対した。
「相手はプロだ。素人の尾行など気づかれる」
「いえ、レラなら気づかれることはありませんよ」
そう断言するには、2つの理由があった。
1つは、レラが偵察任務に長けていること。尾行もまた、得意な範疇だ。
もう1つは、レラの運気が依然としてプラス9千台にあることだ。
これなら、たとえば尾行のスキルがなくとも、気取られる心配はない。運がいいのだから。
というわけで結城は、尾行役にレラを送り出した。
結城、セシリー、リースは、いったん退いた。
セシリーが不思議そうに言う。
「それにしても、魔裂弾の暗殺者は、市場で何をしているのでしょうか?」
結城も同感だった。
「まさか、リースさんの暗殺を失敗した後で、買い物しているわけではないだろうし」
「意外と、本当に晩御飯の買い物かもですね」
「まぁ、暗殺者だって、飯は食べるだろうし。まさか、そうなのか?」
リースが呆れた様子で言う。
「そんな訳がないだろ。暗殺に関する何かをするため、市場にいるはずだ。連中は、そういう生き物だ」
結城はある疑問を抱いた。
「リースさんは、暗殺ギルドに詳しいですね。単に狙われているだけでは、そこまで詳しくはならないのでは?」
リースは暗殺ギルドの掟も知っていた。一度、受けた依頼は何があろうとも完遂する、ということを。
結城たちが知らないだけで、広く知られていることなのか。それとも──。
セシリーがふいに言った。
「暗殺に関係することって、何なんのでしょうか?」
結城はひとまず、リースへの疑念は棚上げした。
それから、セシリーに答える。
「毒物を買いに来たとか?」
「または、誰かを暗殺する、とかですか?」
結城は「あっ」と思った。
暗殺者の標的が、リースだけとは限らないのだ。
このロット町に、2人の標的がいたとしても、おかしくはない。
暗殺者はリースを仕留めるのに失敗し、ひとまずもう一人の標的を襲おうとしている。
(ということは、人込みに紛れて、いまにも暗殺を実行するつもりだろうか)
結城は決断を迫られた。
「……尾行は中止し、暗殺を阻止する」
結城はそれだけ告げると、市場を見渡せるところまで戻った。
暗殺者の標的を探すには、どうするべきか?
結城が行ったのは、市場にいる全員を、風水鑑定することだった。
暗殺者に狙われているということは、当然ながら、不運だ。
すなわち、運気数値は低い。そこで見極める。
とはいえ、市場を賑わす客たちは何百人といる。
それらを一斉に風水鑑定したため、結城は激しい頭痛に襲われた。
さらに視界を埋め尽くす、数百の運気数値。
(これを目視で確認するのは、不可能だ)
そこで結城は、自身の風水能力に検索を命じた。
まず、マイナスの運気数値のみを表示させる。
一気に数が減り、わずか17人となった。
その中から、マイナス三桁のものを取り出す。
3人いた。
この中の一人が、暗殺者の標的であることは間違いない。
ここからは、実際の暗殺者の現在位置から推測するしかない。
結城はまず、レラを探した。ギルド・マスターであるため、メンバーのレラならば、すぐに見つけられる。
続いてレラから、暗殺者を見つける。
最後に暗殺者の最も近くにいる、マイナス三桁の人物を特定。
「標的にされている者を、見つけた──しかし、間に合うか?」




