55話 運気で、暗殺者を見つけ出す。
「それで、リースさん。なぜ、暗殺ギルドに命を狙われているんですか?」
リースへの〈運気上昇〉スキルは発動済みだ。
リースの運気数値は、快調に回復している。とくにマイナス数値のときは、運気上昇の速度は速い。
リースは突き放すように答えた。
「オレが話せばならない理由があるのか?」
「一時的とはいえ、仲間になったわけですし」
とはいえ、リースが狙われる理由は、確かに知る必要はないのかもしれない。考え直した結城は、謝罪した。
「申し訳ない。立ち入ったことを聞いてしまったようで」
リースは溜息をついた。
「いや、構わない。実際のところ、たいした理由ではないからな。爵位を巡った詰まらない争いだ」
爵位は長男が継ぐものだが、男子がいない場合は、ややこしい。長女が継ぐ場合もあれば、叔父の長男が継承することもある。
リースは爵位に興味はないが、この争いに巻き込まれたようだ。
「リースさんの叔父が、自分の子に爵位を継がせるため、あなたの命を狙っているわけですか」
「実際に命を狙って来るのは、暗殺ギルドだが、依頼したのは叔父上だろうな」
「依頼者が分かっているのなら、叔父さんと話し合ってみたら、どうですかね? まぁ、少しは手荒なことをしてでも」
結城がそう提案すると、リースは鼻で笑った。
「貴様は、暗殺ギルドのことを知らないようだな」
「これまで縁がなかったもので」
「暗殺ギルドには、掟がある。一度受けた依頼は完遂する、というな。よって依頼者が取り消そうとしても、それは不可能だ」
「なるほど」
「たとえ依頼者が死んでも、な」
「……」
リースの言葉に、何やら不穏な響きを感じ取った。
結城は、ある可能性を考えた。
リースは、叔父が依頼者と確信している。もしかすると、すでに叔父と話し合ったのかもしれない。
そのとき、叔父の命を取っていたとしても、おかしくはない。
(いや、それだと、リースは指名手配されているかもしれない。風水ギルドの救世主が、官憲に追われていたら、困るな。余計なことは考えないでおこう)
リースの運気数値は、今やマイナス98まで落ち着いていた。もうじき、プラスに入るだろう。
リースが問いかけてくる。
「それで、風水ギルド・マスター」
「ユウキと呼んでもらえますか」
「ユウキ。これから、どうするつもりだ? あいにく、オレは暗殺ギルドの拠点などは知らない。唯一の手がかりは、魔裂弾を投げ込んで来た者だけだ」
「魔裂弾? ああ、酒場に投げ込まれた球体ですね。あれは、どこかで売っているものなんですか?」
「魔法使いギルドから、仕入れたものだろうな。暗殺ギルドと魔法使いギルドは、時に取引する関係と聞く」
結城は呻いた。
魔法使いギルドとの関係は、友好的とはいえない。以前のように敵対こそしていないが。
暗殺ギルドを叩くにあたって、出て来て欲しくはない相手だ。味方になることはないだろうから。
「レラ。酒場内に魔裂弾を投げ込んだ犯人だが、顔は見たね?」
レラはうなずいた。
「見ました」
リースが冷ややかに口を挟む。
「だが、もう見失ってしまった。追跡は不可能だろう」
結城は、レラの運気数値を見やる。ケメ町にいたときに、レラには〈開運提供〉スキルで、運気数値プラス1万を与えてある。
運気数値プラス1万とは、通常では維持できるものではない。そのため、レラの運気数値は現在、プラス9562まで落ちている。
それでも、依然として、高い運気であることに変わりはない。
「リースさん。風水師には、風水師のやり方があります。外に出ましょう」
結城、リース、セシリー、レラの4人は、宿から出た。
当てもなく、町内を歩き出す。先頭に立つのは、レラだ。
レラが、適当に道を選んでいるのだ。
リースが苛立たしそうに言う。
「こんなところで、散歩している場合か?」
「いえ、これは散歩ではありません。捜索です」
市場に入ったときだ。レラが立ち止まり、物陰に隠れた。
結城たちも倣う。
レラが一点を指さした。そこには長身の男がいる。
「ユウキ殿。あの男です。おの男が、魔裂弾を投げ込んだ犯人です」
運気数値プラス9千が、レラを犯人のところまで導いたのだ。




