54話 交渉する。
結城は、リースに、セシリーとレラを紹介した。
リースは鋭い口調で言う。
「それで、そっちの条件は?」
「僕は風水ギルドのギルド・マスターだ。現在、風水ギルドは暗殺ギルドに狙われている」
暗殺ギルドの名を聞くと、リースは気になる表情をした。
(もしかすると、リースは暗殺ギルドと関係があるのか?)
だとすると、これは幸運なのか、そうではないのか。
「我々に助力してもらいたい」
「なぜ、オレが?」
「風水の導き」
「風水、ね」
風水のことを、バカにしているわけではないようだが、信じてもいないようだ。
当然ながら、風水は魔法ほどには、人々に認知されていない。風水ギルド自体が、新規ギルドなので仕方ないが。
「風水ギルドに手を貸してくれるのなら、我々もあなたを助けますよ」
「どう、助けてくれると言うんだ?」
「とりあえず、あなたの運気を上げましょう」
リースの運気は現在、マイナス852。
酒場にいたときよりは、マシになっている。球体の爆裂を回避できたからだろう。
それでも、マイナス3桁は、あまりに良くない運気だ。
(にしても、あの球体は、手榴弾のようだった。もちろん、この世界に手榴弾はないだろうから、魔法で造られたものだろうが)
「運気って奴を、どう上げてくれるというんだ?」
「では、風水鑑定を」
リースが味方になってくれれば、それはパーティの一員だ。〈運気上昇〉スキルを使うことができる。
だが、リースはまだ協力を約束してくれてはいない。これではパーティの一員とは解釈できず、〈運気上昇〉スキルも使えない。
〈運気上昇〉の対象となるのは、結城の仲間だけだからだ。
となると、装飾品などを注意して、地道に運気を上げるしかない。
結城は、〈風水定位盤〉、〈龍視〉、〈五行極め〉を同時発動。
「暖色系の衣服を着てもらえますか?」
※※※※
道具屋で暖色系のマントを購入し、リースに羽織ってもらった。
リースは嫌そうだったが、我慢してもらう。
リースの運気は現在、マイナス788。先ほどより少しは良くなったが、元が酷すぎる。
〈運気上昇〉スキル、または〈開運提供〉スキルを行いたいのだが、いまは無理だ。
「リースさん。誰に命を狙われているのか、教えてもらえますか?」
結城、リース、セシリー、レラの一行は、宿を取った。内密の話をするには、宿の部屋が無難だ。
今は、宿の一室で、声量を低くしながら話している。
リースが、面白くもなさそうに笑った。
「お前は、頭がいいんだろ。推測はできるはずだ。それが無理なら、風水とやらに聞いてみたらどうだ?」
「風水とは会話できないので。しかし──」
リースのヒントによって、結城は答えに行きついた。
考えてみれば、当然の話だ。
だからこそ風水は、結城をリースへと導いたのだから。
「暗殺ギルドですね」
傍にいたセシリーとレラが、同時に驚いた顔をした。
リースがうなずく。
「そうだ。オレとお前たちは、同じギルドの標的にされているわけだ」
「では、呉越同舟と言えますね?」
リースは用心深そうに答える。
「仲間になる、と言った覚えはないぞ」
「仲間になってくれれば、あなたのマイナス運気を改善できますが」
「オレは一人で、暗殺ギルドを潰してやる。そうすれば、お前たちも安心だろう」
結城は首を横に振った。
「ダメですね。暗殺ギルドは、一筋縄ではいかない。僕たちも、色々な敵と戦ってきた。逆恨みしてきた伯爵や、隣国の王位継承争い、などとも。精霊と龍脈の代理戦争として、魔法使いギルドとやり合ったこともある。コル教とも友好的とはいえない」
「なかなか、立派な実績だな」
「それでも、暗殺ギルドほどに、脅威を感じたことはありません。僕たちは協力しなければ。そうしないと、暗殺ギルドの思う壺です」
リースは考える眼差しで、結城を見る。
「お前の風水の力と、オレの剣の技か。それが力を合わせれば、暗殺ギルドを倒せると言うんだな? それが風水のお告げか?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「……いいだろう。お前たちと出会ったのも、何かの縁だ。仲間になろう」
『何かの縁』、それこそが運気というものだ。
結城とリースは握手した。
さっそく結城は、〈運気上昇〉スキルを発動する。




