53話 危機一髪。
風水ギルドにとって必要なのは、戦闘や暗殺のプロだ。
そして、〈開運天国〉スキルによって、味方に加えたい人物を、ロット町で見つけた。刀を使う男装の麗人、リースという名だ。
「あとは、どう口説き落とすかだが」
結城がそう言うと、レラが提案する。
「傭兵のようでした。報酬を提示したら、どうです?」
結城の目には、傭兵には映らなかったが。
「とりあえず、彼女を追いかけてみよう」
リースが歩いて行ったほうへ、結城たちは早足で進む。
せっかく、味方にしたい人材を見つけたのに、見失ってしまっては意味がない。
やがて、リースが酒場に入っていくところが、見えた。
結城たちは、追いかけるようにして、その酒場に入る。
「レラは外で待機していてくれ」
「了解です」
まだ昼間だが、酒場内は人で賑わっていた。すでに酔っ払いが喧嘩している。
リースはカウンター席にいた。結城は隣に腰かける。リースと同じビールを注文した。
普段、結城はあまり酒を飲まないが、下戸というわけではない。
「改めて自己紹介してもいいですか?」
リースは興味がなさそうに、結城を見やった。
「好きにするんだな」
結城が名乗る前に、セシリーが腕を引っ張り、カウンターから引き離した。
「マスター。風水ギルドのマスターであることを明かすのは、賢明ではありません」
「リスクは承知しているけど、どうしてもリースの力を借りたい。そのためには、隠し事をせずに──あれ?」
結城は、カウンターにいるリースを見やり、首を傾げた。
結城は意図せずとも、他者の運気数値を見ることができる。自然の状態で、軽い風水鑑定をしているようなものだ。
風水鑑定を中止するためには、逆に意識する必要がある。
「どうかしましたか?」
「変だな。リースの運気数値だが、今はマイナス2005だ」
ここのところ、運気数値がインフレを起こしているようだ。
かつては、ターロンのマイナス4桁で驚いたものだが、今では4桁さえも見慣れた。
セシリーが眉間にしわを寄せる。
「マイナス2005では、その不運は命にかかわりますね」
「そのようだ」
「リースこそが、風水ギルドの救世主ではなかったのですか?」
「風水ギルドに手を貸すことが、リースにとっての不運ということだろうか」
命を落とすと分かっている者を、味方に引き入れるわけにはいかないが。
「ですが、まだ風水ギルドに誘ってもいませんが?」
「とりあえず、運気の上がる助言でもしてあげよう。さっきは、助けてもらったことだし」
結城は、改めてカウンターに向かおうとした。
そのときだ。足元を、謎の球体が転がって来た。
転がる球体は、結城の前を通り過ぎ、リースの足元で止まった。
気づいたリースが、不思議そうに球体を拾い上げる。
このとき、リースの運気数値は、マイナス1万に達しようとしていた。いまにも、命を落とそうとしている。
転がって来た球体こそが、リースの命を奪うのだ。
まず、セシリーが動いた。
結城から、リースの運気数値が極端に悪くなっている、と知らされた。その原因と、この球体は関係している、と考えたのだろう。
セシリーの剣速が、球体の爆裂を上回った。
球体は刃で弾かれ、天井まで上がる。
結城が怒鳴る。
「みんな、伏せろ!」
球体は、天井付近で爆裂した。
結城たちは伏せていたため、無傷で済んだ。
リースが酒場の出入り口へと駆ける。球体は外から投げ込まれた、と判断したのだろう。すなわち、犯人は酒場の外にいる。
結城も、同意見だった。セシリーと共に、リースを追う。
酒場の表では、レラが待っていた。壁に寄りかかり、退屈して見える。
しかし、それは見せかけだ。
実際のところは、レラは周囲へ鋭い視線を放っている。
そこは偵察任務に長けた、リーグ族の娘だけはある。
「レラ! いま、酒場の中に球体を投げ込んだ者を、見なかったか?」
レラは首を傾げる。
「球体、ですか? そういえば、そんな動作をしている男がいました」
「その男だ。ソイツが、爆裂する球体を投げ込んだんだ」
この会話は、近くにいたリースの耳にも届いていた。
リースが、レラに詰め寄る。
「その男のこと、詳しく教えてもらおう」
レラは、リースを睨んだ。
「ボクは、ユウキ殿の命令しか聞かない」
結城は、リースを押しやった。
「あなたは命を狙われているようだ。僕たちと協力したほうが、得策ではないかな?」
「……そうかもしれんな。で、何から始める?」
「自己紹介とか?」




