5話 風水ギルド(仮)、正式にギルド認定を受ける。
ギルド連合の本部は、王都にある。ロツペン町から行くと、乗合馬車でも、三日はかかる旅程だ。
ただ、ギルド設立の許可を受けるだけなら、支部でも充分。
隣町ペスカに、ギルド連合の支部があるということ。
結城は、ウェンディ、エミリー、トムとともに、出立した。全員で行くため、風水ギルド(仮)は休むことになるが、仕方ない。
弟子のトムもエミリーも、風水師としては、まだ使い物にならない。結城が留守の間、風水ギルドを任せられるようになるのは、まだ先のことだ。
そんなことを考えていると、結城は苦笑した。
(まだ、厳密には、風水ギルドではなかったな)
ロツペン~ペスカ一帯は、滅多に強力なモンスターは出現しない。先日、勇者ギルドを苦戦させたモンスターなどは、かなりの例外だ。
それもあってか町を繋ぐ街道は、石畳であり、すっかり整地されていた。
町を行きかう乗合馬車もある。今回は、この乗合馬車で、ペスカへ向かう。三時間の距離ということで、今日中に帰って来られるだろう。
予定通り、昼頃、ペスカ町に到着。ロツペン町よりも、規模は大きい。ギルド連合の支部があるだけのことはある。
町の周囲は、砂岩の防御壁で囲まれていた。
さっそく、結城たちはギルド連合の支部へ向かった。前日、訪ねることを伝書鳩で伝えてある。つまり、アポは取ってあるわけだ。
「ギルド設立のための書類は、ウェンディ、君が記入してくれ」
転生した身なので、結城はこの世界の文字の読み書きはできない。地道に勉強はしているが。
ただ、不思議なことに、この世界の言語は話せる。厳密には、この国の公共語が。
脳内では日本語なのだが、言葉に発するときは、公共語に変換されているのだ。便利で、ありがたい。同時に、こうも思う。どうせなら、文字の読み書きも、できてくれたら良かったのに。
ただ、この世界、文盲は少なくないらしい。身近なところは、トムもそうだ。幼いときから農業に従事し、学校に通わなかったためとか。
ギルド連合支部の受付に行く。そこには、鋭い眼差しの女性がいた。ギルド連合に所属する者は皆、戦闘力も高いという話。
結城は気を引き締めて、
「風水ギルドの設立の件で、お伺いしました」
担当の者が会議中なので、少し待つように、とのこと。
待合スペースで待機していると、銀髪の男が早足でやって来た。
「お待たせしました。ギルド設立課のゲールと申します。どうぞ、こちらへ」
ゲールの案内で、結城たちは廊下を移動。辿り着いたのは、ギルド設立課だった。
そこは机が並べられ、パーテーションで区切られている。このあたり、現代日本の会社内を想起させられる。
結城も、二年ほど会社務めした経験があった。肌があわないと感じ、転職したのが風水師。三年ほど師匠のもとで学び、ついに独立した晩、交通事故にあった。
そして、この世界へ転生したのだ。
思っていたより、さくさくと手続きは進んだ。ゲールが出す書類に、ウェンディが必要事項を記入する。
それが終わったところで、結城は尋ねた。
「これでギルド設立は完了ですか?」
ゲールは苦笑を浮かべた。
「いえ、いえ。数日中に、ギルド連合より、試験官が伺います。ですが、名乗りません。一人の依頼者として、です」
ようは覆面調査官みたいなものか、と結城は思った。
「つまり、風水ギルドが、ちゃんとギルドとして機能しているか、確認すると?」
「ええ、おっしゃる通りです」
「合格すると、晴れてギルド設立ですね?」
「はい。合否発表のほどは、さらに数日お待ちいただければと、思います」
ということで、結城たちは、その日のうちに、ロツペン町へ引き返した。
帰路のあいだ、エミリーはずっと、「試験管を見極める方法はないかしら? きっと、あるはずよ」と話していた。
結城は腕組みし、考え込んでいた。ロツペン町に乗合馬車が到着したとき、結城は決意を示した。
「いや、余計なことはしないでおこう。僕たちは、これまで通り、依頼者の力になるだけだ」
結局、これが良かったのだろう。七日後、合格通知が届いた。同封されていたのは、正式なギルドであるという証明書。
ウェンディがニッコリした。
「おめでとう、ユウキくん」
「皆のおかげだよ」
エミリーが、別の書類を取り上げ、読んだ。それから、「あら、嫌だ」と呟く。
「どうしたの、エミリー?」
「あたしたち、風水ギルドの看板を出していたじゃない? 連合にしてみると、違反みたいね。ギルド設立の前に、ギルドを騙っていたというわけ」
「それで?」
「罰金50万バルですって」
結城は思った。
(罰が、その程度で済んで良かったよ)