47話 ヨール支部が殲滅される。
【風水ギルドを設立してから、450日目
風水ギルド・メンバー数 1092人】
〈零〉ダンジョン攻略から、2か月ほど経った。
風水ギルドの支部数は、42まで増えた。
新規ギルドの最速記録だそうだ。
いまのところ、風水ギルドは順風満帆といえる。
魔法使いギルドも、表立っては敵視して来なくなった。
勇者ギルドを中心としてパーティを組む場合、魔法使いも参加する。風水ギルドは、彼らの運気も上げている。それによって生存率が高まる。
よって魔法使い達も、風水の有難さを認めずにはいられなくなったのだ。
とはいえ、友好関係を築くまでには至ってはいないが。
教義に反するからと、風水ギルドを敵視していたコル教。
以前の教祖ロルは、結城が失脚させた。それを知っているのは、一部の人間だけだ。
そして新たな教祖が生まれた。祭司長からの昇格で、トマスといった。教祖トマスは、争いを好まない性格。風水についても好意的に解釈してくれた。
風水ギルドにとって、最初の敵となったデラフ伯爵。風の噂では、性病で亡くなったそうだ。
かくして、風水ギルドの敵はいなくなった。順風満帆だ。
その矢先に、事件は起きた。
西方地域に、ヨールという町がある。
ヨール町にも、風水ギルドの支部がある。ヨール町の人口は8千人と少なめ。そのため支部も小さく、メンバーは16人だ。
彼らが、全員、殺されたという。
その報告を受けたとき、さすがの結城も唖然として、言葉を出せなかった。
ようやく動揺を収め、報告して来たウェンディに、尋ねる。
「確認だけど、事故ではないんだね?」
「うん。全員、何者かに殺害されたという話よ」
ウェンディの説明によると──。
ヨール町の近くに、トロン町がある。8キロほどの地点だ。
ここにも風水ギルド支部がある。支部のトップであるサブ・マスターは、デックという男。
結城は個人的には知らないが、以前はトムのもとにいた。ようはトムの弟子だ。トムの推薦で、結城はトロン支部をデックに任せることにした。
このデックの親戚が、ヨール町にいた。
三日前、親戚が仕事でトロン町を訪れ、デックにも挨拶しに行った。そのとき、先週からヨール支部は閉まっているようだ、という話をした。
デックは怪訝に思った。支部が何日も休むというのは、異例だ。本部の指示かもしれないと考え、念のため手紙を送った。
この手紙を受け取ったのが、ウェンディ。
当然、本部はそんな指示など出してはいない。不審に思ったウェンディは、デックに指示書を送った。
ヨール支部に人を送り、状況を確認するように、と。
このときウェンディは、さすがに大事件が起きているとは、考えなかった。
そのため、いちいち結城には知らせなかったのだ。
ギルド・マスターの結城以外に、独断で各支部に指示書を送れる者が、三人いる。ウェンディ、エミリー、リサだ。
その中でも、事務的な仕事を統括するウェンディが、いちばん指示書を送っている。
ウェンディからの指示を受け、デックは自ら、ヨール支部に出向いた。
情報通り、ヨール支部は閉まっていた。そこで支部メンバーの自宅を訪ねてみたが、みな、留守だ。
迷った末、デックはヨール支部のドアを壊し、中に入った。
まず、腐敗臭がしたそうだ。
そして、16人の死体を発見した。
全員、切り裂かれていた。
凶器は、鋭利な刃物、おそらく剣だろう、とのことだ。
ウェンディからの報告を聞き終えた結城は、厳しい表情をした。
風水ギルドを設立して、こん事態は初めてだ。
いままで風水ギルド・メンバーで死亡したのは、8人いる。5人は病死、3人は事故死だ。今回のように、殺害されたのは初めてのことだ。
「これは、風水ギルドへの宣戦布告だ」
結城は断言した。
結城は、緊急集会を開くことにした。
さっそくウェンディに、各支部のサブ・マスターへと指示書を送らせる。指示書には、ヨール支部での事件の説明と、各支部も警戒を厳重にするように、とも記してある。
さらに結城は、〈運気上昇〉スキルを発動した。
〈運気上昇〉スキルは、パーティ・メンバーの運気を、少しずつ上げていくものだ。
運気数値が、プラス1200あたりで打ち止めとなる。
今回は、本部メンバー全員を、『パーティ・メンバー』とした。みなの運気を上げ、奇襲を受けても無事に済むようにしたのだ。
ただ、〈運気上昇〉を使えるのにも、人数制限がある。
風水ギルド・メンバー全員には使えないのだ。
さて、風水ギルドは顧問ギルドだ。よって王への報告義務がある。
結城は王宮に向かい、クース王、執政官グランに謁見した。
結城が、ヨール支部での事件を話す。
グランは無表情で聞いてきた。
「我々に手を貸してもらいたいのかね?」
「いえ、その必要はありません。これは風水ギルドの問題です。ですが、謎の敵を特定し、対処するまでは、顧問ギルドの仕事はできません。顧問ギルドの任を解かれても、仕方なく思います」
クース王は、グランに耳打ちした。グランはうなずき、結城に言った。
「いまや我らの王国に、風水ギルドは不可欠な存在。そちらの問題が解決するまでは、顧問ギルドとしての仕事は回さないでおこう。しかし、君たち風水ギルドを任から解くつもりはない。一日でも早く、敵を倒し、戻ってきてもらいたい」
結城は深々と頭を下げた。
「感謝します」




