46話 開運無双で、ダンジョン攻略。
「ユウキ君、我々はどうすれば良いか?」
緊迫した様子でブランが、結城に尋ねる。いつのまにか、結城が仮リーダーに昇格してしまったようだ。
結城は、〈開運天国〉の残り時間を確かめた。まだ6分ある。
「僕が攻撃するから、皆さんには援護してもらいたい」
「了解した」
クーパーが合流する。ブランは、全員が後衛となる陣営を指示した。
グラコ最終型は、小山ほどに大きい。さらに、この巨体が動き回れるほど、通路は広い。
結城はブロードソードを前に向けて、飛び出した。
グラコ最終型の触手は、一本が大樹のようだ。
ふいに結城は蹴躓く。頭の上を、触手が通過する。
運気が、結城に触手攻撃を回避させたのだ。
結城はブロードソードを振るった。触手が断ち切られる。
しかし、グラコ最終型の触手は、数えきれないほどだ。そのうちの何本かが、後衛にいる、ブランたちへと襲いかかる。
魔法使いの二人が、魔法障壁を作る。だが触手の一撃で、障壁は破壊されてしまった。
やはり、ミノタウロス・クラスか、それ以上の力が、グラコ最終型にはあるようだ。
(早く決着を付けないと、ブランたちがやられてしまう)
グラコ最終型の攻撃は、結城をかすりもしない。
しかし、グラコ最終型のレベルが高いためか、結城もなかなか攻撃できない。膠着状態が続けば、〈開運天国〉が時間切れになってしまう。
(打破するためには、どうすればいいか)
ふと結城は気づいた。グラコ最終型の触手は、本体の中央と下側に密集している。上から攻撃すれば、対抗してくる触手の数も減るはずだ。
(ミノタウロスを倒したときのように、か)
「セシリー、頼む!」
セシリーが後衛から走り出し、結城の傍まで滑り込む。
結城の傍ならば、触手攻撃からも守られる。
「僕を高く飛ばしてくれ!」
「了解しました」
セシリーはうなずき、長剣を振るった。
激しい風圧が、結城の身体を高く舞い上がらせる。
ふいにブロードソードが、手から離れた。
運気数値プラス10万が、ブロードソードの軌道を調整する。
ついにグラコ最終型の、頭頂部に突き刺さった。切っ先が脳を貫く。
結城は着地に成功。まだ〈開運天国〉の効果は続いているからだ。
さらに、ピンときた。
「グラコ最終型は爆裂する! その体液は毒性だぞ!」
結城の警告によって、ブランたちが走って逃げる。
結城とセシリーも続いた。背後で、大きな破裂音がする。
グラコ最終型の最期だろう。
結城はセシリーを押し倒し、覆いかぶさった。グラコの体液が周囲に降り注ぐ。しかし、結城のもとにだけは、落ちて来ない。
よって結城の下にいるセシリーも、安全だ。
しばらくしてから、結城は立ち上がった。
ちょうど、〈開運天国〉の効果が切れたところだ。
結城たちパーティは、ダンジョンの最深部まで進んだ。ミノタウロスの死骸を見て、ブランたちは感嘆した。
「ユウキ君一人で、これほどの化け物を倒すとは」
「いえ、運が良かっただけです」
結城の場合、それは謙遜ではない。運を実力とできるからだ。
「ところで、これで〈零〉ダンジョンは制覇したことになるわけですね?」
「そうだ。君のおかげだ。風水の力は、俺が思っていた以上だった」
「リプさんは残念でした」
落とし穴に落ちたパーティ・メンバーのことだ。
「……ああ。だが、彼の自業自得といえる。君の警告を無視したのだからな」
その後、結城たちは〈零〉ダンジョンの外へと出た。ワープによって。
祭壇は、ワープ装置を兼ねていたのだ。
〈零〉ダンジョンの未踏破領域については、魔法使いが、魔法による道標を作った。
また、一定距離ごとにワープ魔法も設置した。これによって、ダンジョンに入った冒険者は、ワープ魔法を使って、どこの階層からでも外に出られる。
これも、〈零〉ダンジョンの最深部まで行き、攻略したからこそ、発動できるようになった魔法だ。
結城は、勇者ギルド・マスターのローマンと、会った。
「ユウキ。ブランから話は聞いた。大活躍だったそうだな」
「いえ、皆さんのおかげですよ」
「また厳しい任務のときは頼む」
「はぁ」
あまり頼まれたくはなかったが、結城はうなずいた。二人は握手して、別れた。
〈零〉ダンジョン攻略には、6日半かかった。というわけで、ほぼ1週間ぶりに、結城とセシリーは風水ギルド本部に戻ったわけだ。
「ユウキ!」
エミリーが、抱き着いてくる。結城は驚いた。
「ああ、エミリー。元気だった?」
「心配したのよ、何日も帰ってこないから」
泣き笑いのエミリーだ。
「ダンジョン攻略は長くなるらしい、と話したけど?」
ウェンディが、エミリーを引き離した。
「こら、エミリーちゃん。ユウキくんは、疲れているんだから」
それから、結城に向かって、
「ユウキ君、無事で良かった」
「うん、なんとかね」
結城は、ウェンディと見つめ合った。なんとなく気恥ずかしくなって、視線をそらせる。
「ところで、リサは?」
「宮廷にいるよ」
(……そうだった。リサにはまだ、宮廷勤めを任せていたんだ。そろそろ解放させてあげないと、恨まれるぞ)
見ると、ウェンディとエミリーが、セシリーの頑張りを讃えている。
結城は呟いた。
「勇者ギルドはまた、呼んできそうだ。それまでは、支部数でもコツコツ増やしていこうか」




