43話 開運チート・スキルで、無双する。
グラコの攻撃は、触手の打撃だ。単調ではあるが、侮りがたい。
攻撃力が高いため、一撃の破壊力が半端ないためだ。
防御力に自信のある前衛系でも、数打撃を受けるだけで、戦闘不能となるほどだ。
しかも触手の動きは速く、複数あるため、どこからでも狙ってくる。
回避または防御で、手一杯となる。反撃するのもままならない。
しかし、いまの結城には関係のない話だった。
結城の防御力はゼロに近い。触手の一撃で即死は確実だが、心配はしていない。
当たらないからだ。
運気数値が10万とは、そういうものだ。
どのような災難からも、結城を守る。
仮に、いま嵐の海に投げ落とされても、勝手に助かるだろう。
グラコの連続攻撃を、結城は突っ立ったまま、『回避』。
もちろん、グラコが攻撃を外しているわけだ。が、そう仕向けているのが、結城の高い運気。
すなわち、〈開運天国〉スキル。
よって、回避という表現が正しい。
「ど、どうなっているんだ」
と、クーパーが仰天した様子だ。
グラコも、モンスターなので話せないが、同じ気持ちだろう。
結城はハッとした。
(しまった。グラコは、目の前の奴もいれて、まだ6体もいるんだ。こんなところで、遊んでいる場合ではない)
結城は、普通の歩調で、グラコのもとまで歩み寄る。
そして渾身のパンチを放った。
とはいえ、戦闘訓練など受けたことのない結城だ。攻撃力もないに等しい。
通常なら、グラコにダメージ1も与えられないだろう。
だが、いまばかりは運気10万のパンチだ。歩くたびに、金貨を拾うレベル。
クリティカルヒットの100乗が発生。
グラコは吹き飛び、絶命した。
この調子で、結城は隣のグラコに近づき、同じ要領で倒した。さらにもう1体、撃破する。
計3体のグラコを屠ったところで、あとはパーティの仲間に任せられる状態となった。
窮地の時点では、グラコは7体いた。
のち、セシリーが1体、結城が3体倒した。さらにセシリーがブランに加勢したことで、ブランが戦っていたグラコも撃退された。
残りは2体だ。対して、結城の仲間は7人。数的には有利。
とはいえ、先ほどは1体のグラコにも勝ち目は薄かった。ただし、いまは状況が違うのだ。
まず、結城の〈開運提供〉スキルによって、運気数値5500のセシリーがいる。
さらに、ブランたち他のメンバーも、結城の〈運気上昇〉スキルによって、運気数値が上昇中だ。
これなら、残りのグラコ退治は、彼らに任せて問題ない。
(では、僕はどうするかな?)
〈開運天国〉スキルを発動してから、まだ3分も経っていない。〈開運天国〉の効果が切れるのは、発動から10分後だ。
すなわち、あと7分で、結城の運気は元に戻る。
それからは、10時間、〈開運天国〉を使えなくなる。
ちなみに〈運気上昇〉スキルの効果も、あるていど運気を上げると、打ち止めになる。つまり、〈運気上昇〉スキルでは、運気数値を10万まで上げるのは不可能。
(ということで、この運気数値10万。有効に活用しなければ)
決断した結城は、単身で移動を開始。ダンジョンの先へと進む。
この先、グラコより強力なモンスターが現れることは、間違いない。
その敵が近くにいるのなら、運気数値が10万のうちに、倒しておきたい。
2分ほど、進む。ある程度の時点で、引き返さねばならない。元の運気数値に戻ってから、このダンジョンをさ迷うのは、考えものだ。
(もう少し、行ってみようか)
刹那、結城の足元で床がなくなった。
落とし穴だ。
(バカな。僕は、途轍もない開運状態だというのに?)
内臓が持ち上がる感覚。落下しながら、結城はさらに考えた。
(信じがたいことだが、これが僕にとっての、幸運ということなのか)
運気数値が10万なのに、不運が起こることは考え難い。
起こるとしたら、それは幸運だけだ。
つまり、落とし穴にやられ、落ちる。これが、結城にとってプラスとなる事態なのだ。
(どこに、落ちているのか。この高さから、硬いところに落ちたら、即死だけどなぁ)
その心配は、杞憂に終わった。緩衝材のようなところに、落ちたためだ。
衝撃はあったが、ダメージは負わなかった。少し転がってから、立ち上がる。
そこは広い空間だった。周囲の壁から、淡い光が放たれている。おかげで、暗くてまわりが見えない、という事態は避けられた。
20メートルほど先に、祭壇らしきものがある。
「まさか、〈零〉ダンジョンのゴールなのか?」
神々が造ったダンジョンの場合、最深部には、祭壇があると聞く。そのダンジョンを作った神の祭壇だ。
(まいったな。これは、運が良すぎだ)
謎の落とし穴で、一気にショートカットして、ゴールに辿り着いてしまったのだ。ゲームで言えば、裏技を使ったようなもの。
喜んでも良さそうな場面ではある、が。
(完全に、パーティ・メンバーと離れ離れになってしまったぞ)
セシリーやブランたちが、結城と同じショートカットを使えるとは思えない。
いまごろ、結城が落ちた『落とし穴』は、元に戻っているだろう。そして、その上に立っても、もう落とし穴が開くことはないだろう。
仮に開いたとしても、落下する先は、ココではないだろう。
結城だけが、この場に来ることができた。
それが運気数値10万の力なのだ。
唐突に、祭壇の後ろの壁が開き、巨大な影が現れた。
(このダンジョンのボスの、ご登場か)




