42話 絶体絶命の危機に、風水チート・スキルが覚醒する。
結城たち一行は、〈零〉ダンジョン地下50階層にて──異形のモンスター・グラコの急襲を受け、絶体絶命の危機に立たされていた。
グラコ1体でも勝ち目は薄かったのに、それが7体もいる。
生き残れる可能性は、ゼロだ。
その証拠に、結城自身の運気も、いまやマイナス3000を超えようとしている。
転生して初めて、結城は絶望を感じた。
(風水の力をもってしても、異形のモンスターには勝てないのか)
セシリーを見ると、いまにも泣きそうだ。
が、気力で踏みとどまり、剣を構えている。
結城は思う。
ここで彼女を死なせるわけにはいかない。
地上では、ウェンディたちも待っているのだ。
(やはり、僕はここでは死ねないな。しかし、どうすれば──)
風水のさらなる力が欲しいところだ。そこで、ふと気づく。
(僕は一度も、経験値を使って、レベルを上げていないような)
経験値が溜まれば、レベルが上がり、新たなスキルを学べるはずだ。
しかし、結城は仕事柄、新たなスキルの獲得など必要はなかった。少なくとも、この瞬間までは。
「セシリー。レベルUPというのは、勝手に行われるものではないのか?」
「え、それは自ら行うものですが」
「どこで?」
「ステータス画面で行います」
(間に合うか──)
ステータス画面を開くのは、久しぶりだ。
結城の経験値は、風水鑑定するごとに溜まっている。そのため、攻撃力、防御力などには影響を与えない。それで構わない。
いま必要なのは、新たな風水スキルなのだから。
溜まっていた経験値をレベルUPにつぎ込む。
このとき、7体のグラコが、一斉に襲いかかってきた。
対するパーティ・メンバーは8人。しかし結城は戦力にならないので、1人ずつグラコと戦うことになる。
全員がかりでも、1体のグラコさえ倒せなかったのに、だ。
(みんなが殺されるまで、30秒もあるまい。間に合ってくれ──)
結城の視界に、『レベルUPによって取得が可能となったスキルを表示しますか?』と出た。
結城は頭の中で『はい』と答える。
とたん、数えきれないスキルが、表示された。
ただし、表示された全てのスキルが使えるようになるわけではない。
レベルUPのために消費した経験値の分だけ、スキルも会得できるのだ。
さらに、強力なスキルほど、たくさんの経験値を必要とする。
結城が『風水師』であるため、リストのスキルはどれも風水関連だった。
その中から、強力なスキルを3つ、結城は選んだ。
『スキルを獲得しました』
という表示が出たのと、セシリーが倒れたのは同時だった。
「セシリー!」
セシリーは片腕を負傷し、剣を手放してしまっていた。
セシリーが相対しているグラコが、とどめを刺そうと襲いかかる。
「スキル発動!」
新しいスキルの一つ、〈開運提供〉を発動した。
とたん、セシリーの運気がマイナス4500から、プラス5500に変わる。
〈開運提供〉スキルとは、任意の人物に、運気数値プラス10000を与えるものだ。
よって、セシリーの運気が一気に、プラス5500となった。
ただし、このスキル、1日に1人しか使えない。
セシリーは、グラコの攻撃を紙一重で回避し続ける。
高い運気のおかげだ。
結城は長剣を取り上げ、セシリーに放った。
受け取ったセシリーが、長剣を一閃させる。
幸運なことに──もちろん、セシリーの運気のおかげだ──その一撃は、グラコの弱点に当たった。
クリティカルヒットによって、グラコは倒れる。
結城はすでに、次のスキルを発動していた。
〈運気上昇〉スキルを。
これは、パーティ・メンバー全員の運気を上げる、というもの。
運気を上げる人数に、制限がない。
ただ、その分、運気が上がるのが、遅い。
〈開運提供〉スキルの場合は、一瞬で、プラス運気1万だった。一方、〈運気上昇〉スキルの場合は、運気を1千上げるのにも、5分はかかるだろう。
「セシリー。ブランに加勢してくれ」
セシリーによって、1体のグラコが死んだ。
残りは、6体だ。
まずはパーティ・リーダーのブランを救うことだ。
同時に、結城も動いた。
〈運気上昇〉で、パーティ・メンバーの運気を上げつつ、最後のスキルを発動。
〈開運天国〉スキルを。
このスキルは、効果の対象が結城のみ。つまり、自分で自分に使うタイプのスキルなのだ。
その内容は、結城自身の運気を、100000にする、というもの。
〈開運提供〉スキルが1万なのに対し、こちらの〈開運天国〉スキルは、一気に10万だ。圧倒的な数値である。
ただし、運気数値10万が続くのは、10分だけ。
10分経過すると、元の運気数値に戻る。
しかし、10分あれば充分だ。
結城は、魔法使いクーパーに加勢した。いちばん近くにいたのが、クーパーだったからだ。
クーパーが怒鳴る。
「非戦闘員は、引っ込んでいろ!」
結城は首を横に振った。
「いや、いまの僕は戦闘員だ」
運気数値が10万だ。
ただ敵を殴るだけで、それはクリティカルヒットになるだろう。
その領域には、戦闘力など関係なくなる。
結城はグラコを前にして、言った。
「よし、やるか」




