40話 〈零〉ダンジョン攻略を開始する。
パーティ・メンバーは、主に前衛と後衛に分かれる。
勇者、戦士などのギルド・メンバーが、前衛。
攻撃魔法で支援する魔法使いや、治癒魔法のヒーラーは後衛。
結城はといえば、後衛のさらに後ろという所だ。
セシリーは剣士の役目なら、前衛。実際、軽装鎧を身に付け、長剣を装備したセシリーは、立派な剣士に見える。
しかし、セシリーの役目はあくまでも護衛なので、結城の傍を離れない。
ダンジョン内では、パーティは前衛を前にし、後衛を後ろにして進む。しかし、時たまパーティ全体の後方から、モンスターが現れることもある。
この場合、戦闘において最弱の者が後衛にいると、一撃で殺されてしまう。今回の場合、それは結城ということになりそうだ。
よって、パーティ後方から来る敵には、護衛のセシリーが対処する。
ただし、結城自身は、パーティ後方からの敵など恐れてはいない。
結城自身の運気は、プラス1250。毎日、コツコツと運気を上げているおかげだ。
これほどに運気が高ければ、ドラゴン・クラスとの戦闘でもない限り、結城自身が傷つく恐れはない。
仮に、護衛のセシリーがいなくとも、だ。
ただ、油断は禁物だ。〈零〉ダンジョンともなると、本当にドラゴンが出て来てもおかしくはないのだから。
(ドラゴン・クラスの敵に遭遇したら、僕が前衛に出る必要がありそうだ)
と、結城は内心で、覚悟していた。
肝心の〈零〉ダンジョンは、古い寺院に入り口があった。
地下へと降りて行くタイプのダンジョンだ。はじめのほうは、坑道を思わせる作りだった。階層ごとに、階段の位置は異なる。そのため、各階層を突っ切る形で、次の階段へと向かう。
世界各地にあるダンジョンは、様々な者によって作られた。
魔族が作ったものもあれば、何百年も前に滅びた種族が作ったものもある。
〈零〉ダンジョンは神が作ったものではないか、とされるが、定かではないそうだ。
この手のダンジョン移動では、糧食を運ぶだけの係がある。今回の糧食運搬担当は、牛型の獣人だった。 彼も、後衛に位置する。ダンジョン攻略では、食べ物と水の確保は、重要だからだ。
〈零〉ダンジョン地下30階層に降りたところで、周囲の雰囲気ががらりと変わった。
これまでは地下へと掘り進めた、坑道のようだった。それが、突然に神殿の中のようになったのだ。つるりとした壁や天井が、照明を反射する。
「ここから先が、未踏破領域だ」
と、パーティ・リーダーのブランが皆に言った。
(なるほど。ここからが本番か)と結城は思った。
常時、パーティ・メンバーの運気数値は確認している。
この日までに、さまざまな開運対策をしたおかげで、一人ひとりの運気は、マイナス2桁までに回復していた。
とはいえ、確かに、まだマイナス数値ではある。
だが、元がマイナス4桁だったことを踏まえれば、上出来だ。
もちろんマイナスなのだから、不運が起こりやすくはある。ただでさえ、危険なダンジョン攻略をしているのだ。運気がプラスでも、なにが起こるかわからない。
それでも、みなの運気数値を確認していれば、ある程度の未来が予測できる。
というのも、急激に不運が近づいたとき、運気数値はガクンと下がるものだからだ。
(ふむ、なんだ?)
パーティには、アーチャーの役割である、リプという男がいる。
弓矢使いであるため、前衛よりかは後衛寄り。
このリプの運気数値のみが、一挙に悪くなったのだ。
1分前までは、マイナス28だったのが、いまやマイナス365。しかも、いまだ悪くなる一方だ。
ついにマイナス500を超えた。
これは不慮の死が迫っていることを意味している。
結城は、発言した。
「リプ。君のもとに不運が近づいている。気をつけろ」
リプはイラっとした様子で、結城を見返した。
このパーティには、風水に懐疑的な者が何人かいる。そのうちの一人が、リプだ。
「おい、根拠のないことを抜かすな」
「根拠はある。いいか、まずはいったん移動を中止するべきだ」
しかし、リプは聞く耳もたず、歩いて行く。
「バカバカしい」
刹那、リプが消えた。
落とし穴の上を通過してしまったようだ。
リプがいた床には、ポッカリと穴が開いてある。通過するまでは、こんな落とし穴はなく、普通の床だったのに。
これでは落とし穴など見分けようがない。少なくとも、運気の数値だけが、この落とし穴を伝えていたのだ。
不運の内容までは指摘できないのが、歯がゆいところではあるが。
みなは、落とし穴の縁から、下を見下ろした。
ブランが舌打ちした。
「下の階層に落ちたわけではないな。異次元に繋がっているようだ。リプの命はあるまい」
セシリーが強い口調で言う。
「私のギルド・マスターは、リプさんに注意しました。これは忠告を聞かなかった、リプさんのミスです」
ブランはうなずいた。
「わかっている。リプを失ったのは痛いが、風水鑑定が信用できるものであることが、改めて証明されたわけだ」
パーティ・メンバーたちはうなずいた。




