4話 風水鑑定で勇者ギルドを支援し、モンスター退治に貢献する。
モンスターがいるらしい。
結城としては、モンスターのいない異世界に転生したかったが。
結城が住まうロツペン町は、人口が1万2000人。
このロツペン町に繋がる街道で、最近、モンスターの襲撃があるそうだ。ここら一帯に出現するモンスターは、さほどの脅威ではない。
──はずだったが、いま街道に現れるモンスターだけは、別格とのこと。
すでに20人もの旅人が犠牲となっている。
モンスターを退治するのは、勇者ギルドの役目。
しかし、ロツペン町の勇者ギルドは討伐を試みたのだが、失敗。6人の勇者が命を落とした。
別格というだけのことはある。
そんな勇者ギルドの代表が、結城のもとを訪ねて来た。
結城が事務所を借りてから、10日目のことだ。
このとき、風水ギルド(仮)のメンバーは、4人となっていた。
結城、ウェンディに、さらに2人が増えたわけだ。
1人は、トムという農夫。ロツペン町の7割は農民だ。主に小麦を耕している。
結城としては、米が恋しいところだ。が、この一帯は寒い気候のため、米は栽培できないだろう。現代日本のように品種改良していれば別だが。
トムはそんな農夫の一人だったが、風水師見習い募集の話を聞いて、やって来た。
結城が面接を行い、トムが風水師なるため真剣であると、知った。
採用。
4人目は、エミリーだ。
最初の依頼者であり、気の早い風水ギルド看板も作成してくれた彼女。
「風水ギルドについて行けば、大成功しそうだからよ」
という、浮ついた志願理由だった。
これが別の人なら不採用。
ただエミリーには、恩義がある。そこで結城は、採用とした。
(よし、ギルド設立に必要なメンバー数はそろった。あとはギルド連合に許可してもらうだけだ)
結城がそう考えているとき、ロツペン町の勇者ギルドの代表、アレクが来たのだった。
「どうしても、街道に現れるモンスターを倒せない。力を貸してくれないか?」
「モンスター退治ですか」
今回は、人の命がかかっている。
結城はいつになく緊張しつつ、風水鑑定を開始した
「ふうむ」
考え込む結城に、アレクが痺れを切らす。
「やはり、無理か?」
「いえ、待ってください。これはあなた一人の問題ではありません。勇者ギルド全体の運気を上げなければ。そちらに伺っても?」
「おお、頼む」
結城は、トム、ウェンディとともに、勇者ギルドの建物に向かった。
エミリーは留守番だ。
建物に入り、勇者たちを見るなり、結城はうなずいた。
「わかりました。仕事運を下げている問題が」
勇者たちが身に付けている、軽装鎧。そして、剣と盾。繰り返された戦闘のためだろうが、どれも汚れている。たとえば、剣。刃こそ研がれているが、柄などは汚れで真っ黒だ。
「身なりを綺麗にしてください。そうすれば、仕事運が上がります。次こそは、モンスターを倒せますよ」
すると、ギルド・メンバーの何人かから、怒声が発せられた。
「ふざけるな! そんなことでモンスターを倒せるわけがねぇだろ!」
「こっちは命をかけてるんだぞ! お遊びじゃねぇんだ!」
これは予期していたことではあった。
いままでは、風水の力を借りたい人たちだけが、相手だった。今回も、一応は勇者ギルド・マスターである、アレクの依頼ではある。
ただ、勇者ギルド・メンバーの中には、風水を信じていない者も多いだろう。
そういう人たちには、風水鑑定の助言は、いい加減な押し付けと感じてしまうのだろう。
とはいえ、結城には自信があった。
九星の位置、龍脈の流れ、また各人の『五行』からしても、身なりさえ整えれば、仕事運は上がるのだ。
『五行』とは、木、火、土、金、水、五種類の氣のことだ。
龍脈とも通ずる、この五行によって、世界や人は成り立っている。これを五行説という。
龍脈を『視る』ことのできる結城は、当然、人の五行を見極めることもできた。
「風水を信じるか、信じないかは、それぞれの自由です。ですが、考えてみてください。身なりを綺麗にしても、損にはなりません。そのせいで、モンスターを倒せない、ということはないはずです。お願いですから、騙されたと思って、鎧などを綺麗にしてください」
彼らの命がかかっているからこそ、結城も必死になってお願いした。
アレクも賛同を示す。
「そうだぞ、みんな。盾を拭いたからといって、防御力が減るわけでもないだろ」
こうして渋々ながらも、ギルド・メンバーたちは、鎧などの汚れを取ることに専念し始めた。
役目を終えた結城は、武運を祈ってから、その場を後にした。
2日後。アレクがやって来た。晴れやかな顔からして、モンスター退治に成功したようだ。
「風水の力のおかげだ。感謝してもしきれない」
「いえ、皆さんが、日ごろから鍛錬を積んでいるからですよ」
「いや、いや。普段よりも身体は軽かったし、クリティカルヒットも連発した。負傷者一人出さず、強敵なモンスターを倒せた」
「それは良かったです」
「よければ、これからも任務があるたび、風水鑑定をしてはくれないか?」
「喜んで」
こうして、風水ギルド(仮)の初めての、顧客ギルドが生まれた。
もちろん、ロツペン町の勇者ギルドのことだ。
(さてと。ついに、ギルド連合のもとに行くときが来たようだ)