39話 生還率0の、未踏破ダンジョン〈零〉。
勇者ギルド本部と契約してから、しばらく経ったある日。
勇者ギルド本部より、ある人物が、風水ギルド本部を訪れた。受付担当のメンバーから、その人物の名を聞き、結城は嫌な予感がした。
(ローマンだって? 勇者ギルド本部のギルド・マスターじゃないか)
結城は応対に出た。ローマンは40代の男。鋭い眼光に、筋骨隆々とし、威圧感が凄い。
「ご用件は?」
「風水ギルドの者に、パーティに参加してもらいたい」
「それは契約にはありませんが」
ローマンは説明した。
国軍の全権を担う総帥と、勇者ギルドは繋がりがある。
この総帥から、直々の依頼が来た。〈零〉と称される未踏破ダンジョンの攻略だ。
しかし、〈零〉ダンジョンは、他のダンジョンとは別格。精鋭を揃えたパーティで臨んでも、生還率はかなり低い。
しかも、それさえも浅い階層を探索しただけに限った話。
もっと深い階層まで潜れば、誰も無事では済まないだろう。
結城は尋ねる。
「深い階層には、なにが待ち受けているのですか?」
「未踏破である以上、わからんな」
「なるほど……こうしましょう。〈零〉ダンジョンに挑むパーティ・メンバー全員の風水鑑定を、僕が自ら行います」
しかし、ローマンは納得しなかった。ダンジョン内では、なにが起きるかわからない。臨機応変に対処するためにも、風水ギルド・メンバーを一人、パーティに参加させたい、と。
しかも、参加させるメンバーは、サブ・マスター以上でなければ駄目だとも。
結城としては、拒否したいところだ。
だが、拒否すれば、勇者ギルドとの関係性に亀裂が走るだろう。
以前、風水ギルドは、魔法使いギルドとやりあったことがある。風水ギルド・メンバーを拉致監禁されたので、報復として、魔法使いギルドの運気を落とした。
結果、魔法使いギルドは、顧問ギルドの座を解任された。
(勇者ギルドは、魔法使いギルドよりも手ごわいか? いざとなれば、潰しても良いのだが。しかし、わざわざ波風を立てる必要もないのか)
「……いいでしょう。僕が行きましょう」
危険な任務のため、部下を行かせるわけにはいかない。
〈零〉ダンジョンへ入るのは、10日後とのことだ。
まず、〈零〉ダンジョン攻略にあたるパーティ・メンバーとの、顔合わせがあった。
このとき、結城はリサも連れて行った。顔合わせが終わり、風水ギルド本部に戻ったところで、結城は尋ねる。
「リサ。パーティ・メンバーの風水鑑定を行ったね。どう思う?」
「〈零〉ダンジョンの有る方角に対して、みんな、運気の数値はマイナス5000前後」
結城と同じものを、リサも見たようだ。
マイナス5000前後。かつてのターロン並みだ。
このままだと、〈零〉ダンジョンでの全滅は避けられない。
「いまのうちから、パーティ・メンバー全員の運気を、上げていかないと」
※※※
パーティ・メンバーの運気上げが、また苦労した。
みんな、運気マイナス5000前後──いちばん最低値が、パーティを率いる勇者ブランのマイナス6200──だ。
理想は、プラス数値へ上げることだが、簡単ではない。
さっそく結城は指示を出していった。
パーティ・メンバーは、結城を加えて8人。
彼ら全員を、ダンジョン攻略開始日まで、同じ建物で寝泊まりさせた。
この建物は、あらゆる要素で、開運に良い建物だ。家具の配置、建物自体の方角、周囲の環境、壁の色、などなど。
この結城の指示に、パーティ参加の魔法使いクーパーは、抗議した。
魔法使いの精霊と、風水の龍脈は敵対関係にある。クーパーにとっても、結城は敵なのだろう。
しかし、いまはクーパーも、勇者ギルド預かり。パーティを率いるブランの指示には、従わざるをえない。
ブラン自体は、風水を信用しているようで、結城の指示に従順だ。
ちなみにブランは、勇者ギルド本部のサブ・マスター。ギルド・マスターの右腕だ。
風水ギルドでいえば、リサの立ち位置になる。
今回、ギルド・マスターの結城が、自らパーティに参加する。
当然ながら、ウェンディ、エミリー、レラは反対した。リサが反対しなかったのは、誰よりも結城と風水の力を信じているからだろう。
もちろん、ウェンディたちも結城を信じている。が、攻略するダンジョンが〈零〉ということで、反対しているようだ。
「〈零〉は、それほどのダンジョンなのかな?」
結城が聞くと、エミリーは顔を蒼白にして答える。
「生きては帰って来られない、という噂よ」
「心配ない。僕は、生きて帰って来るよ」
最終的に、護衛役のセシリーも同行させることで、ウェンディたちは受け入れた。
結城は、パーティ・メンバーの追加許可を、ブランに求めた。
ブランは、セシリーの腕前を見てからだ、との返答。
それもそうだ、と結城は思った。
セシリーは単身、勇者ギルド本部に向かった。
そこでブラン相手に模擬戦を行ったそうだ。
「勝ったの?」
帰還したセシリーに、結城はそう尋ねた。
セシリーは恥じ入るように答える。
「負けました」
しかし、ブランはセシリーの技量を認めたようだ。参加を許可してくれたので。
そもそも、相手は勇者ギルドでもトップクラス。さすがのセシリーも勝てるはずはない。
かくして──〈零〉ダンジョン攻略開始の日を迎えた。




