38話 勇者ギルド本部と契約する。
ある夜。
王都ルセウスの風水ギルド本部で、緊急会議が開かれた。
結城を中心にして、主要メンバーがそろう。まず、風水ギルド本部からは、ウェンディ、エミリー、リサ、レラ、セシリー。
セシリーは、半分は結城の護衛としての役割で参加している。
剣技が得意なセシリーを護衛役にしたのは、ウェンディだ。
風水ギルドが勢力を拡大するに伴い、敵も増える。敵が狙うなら、ギルド・マスターの結城だろう、と。
他の会議参加者は、風水ギルドの支部のトップたちだ。
トムの姿もあるし、新しくできた北方地域の支部からは、ユージンも来ている。
今回、あることを決めるため、結城が招集したのだ。
これについては、主要メンバーで話し合い、投票という形を取りたかった。その件を結城は口にする。
「勇者ギルド本部が、我々と契約したいそうだ」
勇者ギルドの仕事は、複数ある。たとえば町村規模なら、警察の役割も担う。
ただ、王都のような都市規模では、警察の役目は衛兵が担う。
勇者ギルドの真の仕事は、モンスター討伐や、未踏破のダンジョン攻略だ。
魔族が攻めてくれば、国軍や領主軍とともに迎え撃つ。
そんな勇者ギルドが、風水ギルドと組みたいという。
以前にも、勇者ギルドと関わったことはある。
風水ギルドの本部が、まだロツペン町にいたころだ。ロツペン町の勇者ギルド支部を顧客に持ったことがあった。
ただし、あのときは支部単位の取引だった。
今回の取引先は、勇者ギルドの大本である本部。
契約するならば、勇者ギルド本部だけではなく、アルバ国内にある勇者ギルド支部全てが、顧客となる。
ちなみに、支部数は105だ。
この話を結城から聞くなり、エミリーは顔を輝かせた。
「風水ギルドが始まって以来の、最大の契約じゃない。なにを迷う必要があるの、ユウキ?」
「すべての勇者に対して、風水ギルドが責任を負わされるかもしれないからさ」
「どういうこと?」
結城は説明した。
ある勇者ギルドが、パーティを組んだとする。
このパーティには、勇者だけではなく、魔法使いや戦士が加わることもある。
魔法使いは魔法使いギルドから、戦士は傭兵ギルドから参加する。
この場合、ほかのギルド・メンバーは、いったん勇者ギルド預かりとなる。
よって勇者ギルドが、責任を持つ。
いままでは、そうだった。
だが、風水ギルドと契約した後は、どうなるか。
「どうなるの?」
と、エミリーが首を傾げる。
「いま説明するよ」
勇者が、ほかのギルド・メンバーとパーティを組むのは、大きな任務のときだけだ。
たとえば、何百階層もあるダンジョンを攻略するとき、など。
パーティは出発前に、風水ギルドの者を呼ぶだろう。そして、風水鑑定を求めてくる。
そのために、風水ギルドと契約するのだから。
風水ギルド側は、運気の上がる装飾品などを指示する。
「それで、パーティが無事に任務を果たし、帰還すればいい。問題は、パーティになにか起きたときだ。勇者が致命傷を負ったとか、魔法使いがモンスターに拉致されたとか。その場合、風水ギルドが責任を追及される危険性がある」
エミリーが納得のいかない様子で言う。
「そんなのは、おかしいわよ。風水鑑定で運気を上げたからといって、絶対に安全というわけではないわ。ましてや、ダンジョン攻略など危険な任務に向かうのだから」
結城も同感だった。しかし──。
「勇者ギルド側が、それで納得するかは難しいところだ。最悪、勇者ギルドが敵となるかもしれない」
「もしもそうなったら、逆恨みもいいところね」
「まあね」
正直なところ、結城自身が風水鑑定すれば、高確率でパーティは無事だろう。
さすがに魔王討伐クラスの任務だと、結城の風水チートを持ってしても、危ういが。
とはいえ、その手の任務が、毎年あるとも思えない。
つまり、すべての勇者パーティの風水鑑定を、結城がやれば問題ない。
しかし、それは現実的ではない。勇者ギルドの拠点は、アルバ国内で100以上あるのだから。
「みんな、聞いてくれ」
ここまでは、結城を抜かせば、エミリーしか発言していない。
改めて、結城は集まった主要メンバーを見回した。
「風水鑑定をした勇者パーティが、任務中に負傷などした場合。勇者ギルドは、風水ギルドを責めるかもしれない──これは、あくまで僕が、懸念しているだけだ。そんなことには、ならないかもしれない。その上で、決を採りたい。勇者ギルド本部と、契約するべきか否かを」
無記名での投票が行われた。
結果は、契約するべき、が多数を占めた。
「わかった。勇者ギルドと契約するとしよう」
勇者ギルドとの、本部同士での契約だ。
これによって、風水ギルドは、より勢力を拡大できるかもしれない。もしくは、勇者ギルドと険悪になるかもしれない。
「まぁ、恐れてばかりいても仕方ない。決まった以上は、実行あるのみだ」




