36話 爵位を買う。
〈運気交換〉スキルで、教皇ロルとターロンの運気を、交換してしまう。
この結城の策にも、弱点はあった。
失敗すればターロンの命が危ぶまれることだ。
運気交換そのものに危険性はない。
が、こちらの狙いをロル側に気取られてしまえば、攻撃されるだろう。
ターロンも標的にされることは、間違いない。
ひとまず、結城はターロンに相談してみた。
このときウェンディが、王の勅命を臭わせた。
それもあって、ターロンは了承。
結城としては、王の後ろ盾を使うのは反対だった。事前に、ウェンディに注意しておかなかったのが、悪かったわけだが。
(まぁ、仕方ない。作戦を成功させればいいだけの話だ)
準備を整え、3日後。
結城は再度、城郭都市コルへと向かった。
同行するのは、偵察役のレラ、護衛役のセシリー、結城に次ぐ風水師であるリサ、的確な助言者エミリー。そして悪運の男ターロン。
「教皇ロルとターロンさんが、同じ空間にいてくれさえすれば良い」
とはいえ、これは難題だ。
相手は教皇。平民のターロンとは会うまい。
城郭都市コルの宿に宿泊し、6日経った。
打開策が思いつかずにいたときだ。
レラが偵察から戻り、良い知らせを持ってきた。
20日後、教皇は〈はじまりの教会〉でミサを執り行うそうだ。
〈はじまりの教会〉とは、コル教の始まりの地。
この教会は城郭都市コルではなく、北方地域にあるルールという町にある。
普段は、通常の司祭が管理している。
しかし、年に一度、救世主の生誕日にのみ、教皇が自ら〈はじまりの教会〉に出向き、ミサを行うのが、決まりだという。
それが20日後だ。
「同じ教会の中でなら、運気交換を行える」
ただし、これにも問題がある。
教皇ロル自らのミサということもあり、誰もが参加できるわけではない。
教会に入れる信者を選別せねば、〈はじまりの教会〉が人で溢れてしまうだろう。
レラは報告を締めくくった。
「どうやら、ミサに参加できるのは、貴族だけのようです」
「では、ウィウ伯爵に頼むとしようか」
ウィウ伯爵は、風水ギルドを支援してくれる貴族の一人だ。
結城たちは王都ルセウスの風水ギルド本部に戻り、ウィウ伯のもとへ伝書鳩を飛ばした。
返事は翌日に来た。
一読して、結城は顔を曇らせる。
ウィウ伯の返信は、こういうものだった。
立場上、今回の件には協力できない、残念だが──と。
結城は、しまった、と思った。
ウィウ伯は、コル信徒だったのだ。
事前に確認するべきだったが、怠ってしまった。
だが、不幸中の幸いもある。ウィウ伯への手紙に、教皇を失脚させる作戦までは明かしていないのだ。手紙がウィウ伯以外の者に渡った場合の用心だったが。
とにかく、作戦を知らない以上は、ウィウ伯がコル教に密告することはない。
「ごめんね、ユウキくん。わたしが確認するべきことだったよ」
謝るウェンディに、結城は答えた。
「大事に至らなかったし、問題ないよ。ただ、教皇ロルのミサに参加する手を考えなくては」
国王には頼めない。
機密任務なのだから、国王側は無関係を望んでいる。
「貴族の位なら、買っちゃえば?」
突然、エミリーがそんなことを言いだした。
「え、貴族って買えるものなの?」
「男爵の位ならね、高いけれど。貴族といっても、みんなが領地を持っているわけではないもの。爵位だけの、貧乏貴族もいるわけだし」
風水ギルドの資産からすれば、男爵位なら、たいした買い物ではないだろう。
結城自身は、貴族などに憧れなどはない。ただ、風水ギルドのギルド・マスターには、男爵くらいの格は持たせるべきかもしれない。
「貴族になったとしても、今度は匿名性がなくなってしまうのでは? 風水ギルドの者が、コル教のミサに参加できるとは思えない。ましてや、教皇のミサには」
「その心配も杞憂だと思うわよ」
爵位の証書を示せば済む話で、その者がどこのギルドに属しているか、までは確認されないらしい。
必要なのは、信仰心のみ。
「信仰心のところは、気前の良い寄進で、どうとでもなるみたい」
つまり、賄賂を渡せば良い、と。
「エミリー、詳しいね」
「ここだけの話、あたしのパパが熱心な信者なのよね。あたしは違うけれど」
「エミリーは、いつも頼りになるよ」
「え、そうかしら?」
なぜか顔を赤くするエミリー。
かくして──。
結城は男爵の爵位を持ち、ルール町に向かった。
同行者は、リサ、レラ、エミリー、セシリー、ターロン。
ただし、〈はじまりの教会〉には、結城とターロンのみが入れる。
幸いなことに、ミサに参加する者は、一人だけ連れが許されていたのだ。
このミサに参加する権利だが、エミリーの助言どおり、多額の寄進でクリア。
「あとは、〈運気交換〉の実行あるのみだ」




