35話 〈運気交換〉スキルを用いる作戦。
「ターロンさんの悪運は、女性と関係を持ったとき、発生しているようだ」
そのため、ターロンと付き合った女性たちに、悲運が降りかかる。
「悪運の方向を変えれば、女性と付き合っても、その女性が不幸になることはなくなる」
結城がそう解説しているのは、風水ギルド本部だ。
営業時間外なので、本部内には結城のほか、リサ、エミリー、ウェンディ、レラしかいない。
エミリーが挙手して、訊く。
「それなら、悪運の方向を変えてあげたら? ターロンさん、もう40歳間近だから、奥さんが欲しいみたいよ」
「その場合、帳尻をあわせるため、別のところで不運が起こってしまう。たとえば、ターロンさん自身に災いが起き、命を落とすとかね」
「あら。それじゃ、ダメね」
「いや、だからこそ、良いんだよ」
エミリーたちが驚きの顔をした。リサだけが、結城の狙いに気づいた様子だ。
結城には、これまで使ったことのないスキルが、一つあった。
〈運気交換〉スキルというものだ。
結城は、このスキルについて説明した。
「条件さえ整えることができれば、人同士の運気を交換することができるんだ」
結城ほどの風水師ともなれば、他人の運気を数値化することができる。
数値がプラスなら運気は良く、マイナスならば運気は悪い。
風水師は、この数値を良くできるよう、助言するのだ。
依頼者の運気数値がマイナスならば、0に近づける。可能なら、そこからプラスへと転じさせる。
もとからプラスの依頼者なら、その数値をさらに上げる。運気数値+5と+50なら、後者のほうが良いことが起きる率は高まるのだから。
ちなみに、結城以外に、他者の運気を数値化できるのは、リサのみ。
かつては結城のみ可能だったが、あるときリサも、運気の数値化スキルを会得した。
とにかく、〈運気交換〉スキルとは、この数値化した運気を、交換させてしまうことだ。
A氏の運気がプラス50で、B氏がマイナス50だとする。
これを丸ごと交換してしまう。
すると、A氏の運気がマイナス50となり、B氏の運気はプラス50となる。
このスキルは、これまで一度も使ったことがない。
運気とは、風水師にとって一種神聖もの。
運気の数値自体を、上がるよう、または下がるように仕向けるのは良い。
しかし、運気そのものを、別の人の運気と取り換えてしまうのは、禁忌といえるのだ。
とはいえ、今ばかりは手段を選んではいられない。
「それに、この〈運気交換〉スキルは、基本、それほど便利ではない」
たとえば、以前の任務で標的とした、バル国の第二王子ポル。
ポルの運気を下げることが、ゼール第一王子を王位につけるため、必要なことだった。
では、ポルの運気を、別の人の運気と交換すれば済んだのか?
必ずしも、そうではない。
なぜなら、普通は運気が悪いといっても、それほど極端ではないからだ。
数値がマイナスでも、せいぜい3桁止まり。
風水ギルドを逆恨みしていた、デラフ伯爵の件がある。
デラフを失脚させるため、結城はデラフの運気を下げた。
最終的に、デラフの運気は、マイナス2023まで下がっていた。
通常なら、マイナス4桁とは、ありえない数値だ。
結城というチート風水師が、風水工作を行ったがため、デラフの運気はここまで落ちた。
つまり、標的の運気を、別の人の運気と交換しても、マイナス3桁止まり。
ならば初めから、標的の運気が下がる工作をしたほうが、確実というわけだ。
「通常、ならね」
と、結城は続けた。
「今回は別だ。まず教皇ロルは、滅多に姿を現さない。ロル単身の運気を下げるための工作は、ロルが現れてくれないと無理だ。また、ロルが籠っている城ごと、運気を下げるのも現実的ではない」
魔法使いギルドの本部くらいのスケールなら、建物ごと運気を下げる工作も可能だ。
結果、魔法使いギルドは失墜している。
しかし、さすがに城は大きすぎる。
「こうなると、『別の人との運気の交換』が、唯一、現実的な策だ」
そんなとき、結城は遭遇したのだ。
ターロンという、極端に運気の低い男に。
ターロンの運気を、教皇ロルの運気にしてしまう。
マイナス7500ともなれば、ロルが失脚するのは早いだろう。
ただし、悪運の方向を、仕事運に返る必要はあるが。それさえすれば、ロルが教皇の座から落とされるのは、あっという間のはずだ。
反対に、ロルのものだった運気を得て、ターロンの人生も上向く。
「一石二鳥だよ」




