32話 女剣士が本部勤めになる。
西方地域においては、グラスという町が有望らしい。
王の直轄地の中にある町で、その点では、領主と争う心配はない。これはプラス材料だ。
デラフ伯爵のような輩が領主である可能性も、あるのだから。
風水ギルドを嫌うコル教の力も、さほど強くない。
風水ギルドの敵は、なかなかに多い。
まず、デラフ伯。これは逆恨みといえる動機で、敵対してきている。
魔法使いギルドの場合は、精霊と龍脈の関係で、敵視して来ている。
そして、コル教だ。コル教は教義の面で、風水ギルドを認めていない。
いまのところ、コル教との大きな対立はない。これは結城たちが支部選びに、コル教の力の弱いところを選んでいるからだ。
また王都ではコル教の力も強いが、大人しい。これは王の眼前のためだろう。
「グラス町に、物件はあったの?」
最後の問題は、空き物件があるかだ。風水ギルドの支部なので、それなりにちゃんとした建物が良い。
かといって、一から建築する手間はない。
ゆえに丁度良い物件がないと、支部設立は流れてしまう。
レラの答えは、物件はありました、とのこと。
すでに不動産ギルドと話を付け、5日以内に連絡を入れることになっていた。
結城はさっそく、契約したい旨の手紙を、伝書鳩で送った。
結城は、ネルソンの風水師のレベルを見極める。
「よし、ネルソン。君を、グラス支部のサブ・マスターに任じよう」
ネルソンは畏まった。
「有難き幸せ」
ネルソン自身に、リーダーを選ばせる。リーダーは補佐役なので、サブ・マスター自身に選抜させたほうが、上手くいく。
もちろん、リーダーでも一定の実力は必要だが。
(西方地域の足掛かりも、これでつきそうだ)
翌日。
風水ギルド本部に客人があった。依頼者ではない。
ギルド・メンバーの一人、セシリーだ。年は18。肩のところで切りそろえた、金色の髪。ほっそりした肢体に、豊かな胸。意外なことに長剣を装備している。
セシリーは、結城が直々に呼び寄せた。
宮廷に登用されたリサの代わりとして、どうだろうか、と。
ところが、結城が事情を話すと、セシリーは明らかに嫌そうな顔をした。
「閣下」
と呼び掛けてくる、セシリー。
結城は『閣下』と呼ばれたのは、初めてのことだ。貴族階級ではないので、厳密には間違いではある。が、あまり重要なことでもない。
「うん?」
「私の望みは、サブ・マスターとして支部を任せていただくことです。宮廷人になることではございません。どうか、考え直してください」
そうまで言われると、強制はできない。
結城は了解した。
とはいえ、王都まで足を運ばせ、このまま帰すのも忍びない。
「君さえよければ、本部勤めになってくれないか?」
ネルソンが抜けた穴を、セシリーに埋めてもらおうというわけだ。
セシリーを寄こしてくれたピルカ支部には悪いが、本部の戦力確保が重要である。
セシリーは「喜んでお受けいたします」とのこと。
(リサにはもうしばらく、耐えてもらうとするかな)
※※※※
セシリーが本部勤めになってから、12日経った。
結城はすでに、西方地域にもう2か所、支部を設立する計画を進めていた。
顧問ギルドとして、いつまた難題を押し付けられるか、わからない。
自由なときに、可能な限り、風水ギルドの勢力拡大を進めておきたい。
新たな一員となったセシリーだが、風水師としてのレベルは、28。まずまず、だ。
さらにセシリーには、別の特技があった。
剣技だ。
風水に出会うまでは、女騎士を目指していたという。
父親も騎士であるので、教師がわりに訓練してもらったそうだ。それを聞いて、結城は思った。
(次回、潜入任務が来たときは、セシリーに同行してもらおう)
ところで、ウェンディだが、風水ギルドが顧問ギルドになっただけで満足らしい。
バル国のとき以来、王宮から依頼は来ていないが、気にしている様子はない。
(にしても、だ。いい加減、リサを宮廷から助けてあげないと、恨まれそうだ)
リサの代わりを務まる者がいないのが、悩みだ。
そんなことを考えていると、当のリサが、風水ギルド本部に戻って来た。
「リサ。宮廷での仕事は、もういいの?」
リサは、もともと感情を表に出さない性格。結城に怒っているかは、判断つきづらい。淡々と言った。
「師匠。執政官が呼んでいる」
結城は身構えた。
ついに、顧問ギルドとして動くときが、来たようだ。




