29話 王位継承争いへの風水工作。
「偵察の兵士を尾行することで、ポル王子の居住地は掴めたよ。だが、いくぶん問題がある」
宿に戻ったところで、結城はそう報告した。
ポル第二王子は、どうやら居住地を転々としているようなのだ。
これはゼール王子側からの暗殺を危惧してのことだろう。
それなら王都を出れば良い話にも思える。ただ、やはり王宮から物理的に離れるのは、王位争いから後退することなのだろう。
少なくとも、当人たちの解釈はそうなるのだ。
「居住地が定まってないと、その建物に対して運気を下げても、あまり意味がない」
住まいを通して、運気を下げることは可能だ。魔法使いギルドも、それで失脚させた。しかし、それは『住まい』だからだ(ギルド本部も広義には、住まいに入る)。
一方で、一時的な宿泊先の建物が、風水的に悪くとも、泊まり客にさほど影響は出ない。
もちろん、少しの影響はある。が、王位争いで敗北するほどではないだろう。
「ユウキ。それなら、ポル王子自身の運気を下げにかかるしかないわよね?」
とエミリー。
「しかし、ポル王子の周囲には、護衛がいる」
暗殺を恐れてこそ、転々としているのだ。まわりに護衛を用意するのは、当然のこと。
この護衛を突破して、ポルの運気を下げる工作をする。
これは暗殺より難しいのではないか。
リサが発言。
「では、工作の対象を、ゼールに切り替えるべき」
すなわち、ゼール王子の運気を上げる工作が良い、ということだ。
ゼールは居住地が定まっているので、『住まいに対する運気を上げる工作』が可能だ。
ただ、『運気上げ』は、『運気下げ』ほどの効果は期待できない。
(うーむ)
いつ、結城たちの潜入がバレるかもわからない。
結城としては、さっさと仕事を終え、帰国したかった。
(帰国か。僕もすっかりアルバ国民となったようだ)
「こうしよう。ゼール王子の運気を上げる。同時に、ポル王子の運気も下げる」
ゼールの運気を上げるだけでは、心もとない。
そこでポルの運気も、少しでも下げようというのだ。
ポルが移動する先のアジトに対して、先回りして運気を下げておく。
そうすれば、ポルの運気は下がる。もちろん、『住まいに対する運気下げ』に比べれば、微々たるものだが。
それでも、運気を上げたゼールの要因が加われば、いけるのではないか。
「だけど、ゼールはどう出るつもりなのかしら? ゼールに動く気がないのなら、運気はあまり関係ないかも?」
エミリーの懸念は、結城も理解できる。
仮に、ゼールの運気がマックスだとしても、だ。
ゼールが家に籠っていては、事態はあまり変わらない。
ポルの運気が最悪ならば、ポルの自滅も期待できるのだが。
今回の計画では、ゼールにも動いてもらわないとダメだろう。
「よし、ゼールに手紙を送ろう。いまこそ動くときだ、と」
「信じるかしら? 匿名の手紙なんて?」
結城は一考し、決断した。
「匿名ではないよ。身分を明かすつもりだ。つまり、アルバ国の風水ギルドである、と」
エミリーだけではなく、リサとレラも驚いた様子。
「捕まるわよ」
「そこは賭けではある。ただ、僕たちが潜入している理由を、正直に記す。ゼールが王位について欲しい、というアルバ国の考え。これの筋は通っているので、信用が得られる可能性は高い」
ゼールが惰弱だから、という動機は、隠したほうが良いが。
もちろん、結城は自分たちの運気上げも怠らない。
その上で、手紙を送ることで、信用される確率を高めるのだ。
「手分けしよう。手紙は僕が書く。エミリー、確実にゼールの手に渡るよう、工夫してくれ」
「了解したわ」
「リサ。ゼールの居住地の運気上げは、君に任せる。いけるか?」
ゼールは、居住地を動かない。そのため、運気上げ工作も、難題ではない。
「承知した」
「レラ。ポルのアジトの先回りは、可能かな?」
レラの偵察能力で実行できるか、と問うたのだ。
レラは「可能です」との返答。
「僕がやっておくことは──」
ポルの短期的なアジトが、どのような場所でも、確実に運気を下げられるよう準備しておくこと。
「よし、取りかかろう」
※※※※
ポルのアジト予測が、やはり最も困難だった。
ただ、一定期間にわたって監視することで、アジト移動に一定のパターンがあることが判明。
ある日。
レラは、とある石造りの三階建てを示し、結城に言った。
「明日、この建物をアジトとするため、ポル第二王子が移動してくるはずです」
レラの予測を信じるとして、結城は工作を始めた。
もともと、その建物は丁字路にあった。丁字路にある建物は、運気が低いのだ。
つまり、スタートの時点で、アジトの運気はマイナス数値。このマイナス数値を、さらに大きくするのが、結城の仕事だ。
王位というものを、『仕事』と解釈。
仕事運をダイレクトに下げにかかった。
「よし、あとはどう転ぶか、だ」




