28話 ゼール王子への暗殺を阻止する。
第一王子であるゼールの居場所が先に判明した。
同時に、結城はある集団を目撃した。
複数の軽装鎧を着こんだ連中が、ゼールの居住地の方角へと駆けて行くのを。
どうやら、大胆な暗殺計画が実行中らしい。殺してしまえば、どうとでもなるということか。
結城は一考した。ゼールが失われれば、当然ながら風水ギルドの工作は失敗する。つまり、顧問ギルドにはなれまい。ウェンディは残念がるだろう。
結城としても、ここまで労働したのだから、その対価は欲しい。
「暗殺に対処させるため、ゼールの運気を上げたい。が、ゼールを見ないことには、風水鑑定ができないな」
リサが提案する。
「暗殺に向かう兵士たちの運気を下げることは?」
なるほど、と結城は思った。兵士たちなら、風水鑑定も可能だ。
しかし、果たして、間に合うか?
結城は走り行く兵士たち──20人前後いる──を、まとめて風水鑑定した。〈龍視〉、〈五行極め〉を同時に行い、並行して〈風水定位盤〉で九星の位置も確認。
「風水鑑定する対象を、人ではなく『一群』にしたからね」
すなわち、20人の風水鑑定を一人ずつ行っていけば、時間がかかる。
また、運気の上がる/下がるも、個人によって異なってくる。
個人ごとに、運命には違いがあり、五行や龍脈との相性、すべて異なるためだ。
しかし、それでは間に合わない。
そこで、建物を風水鑑定する方法を応用したのだ。20人の兵士を、『一つの大きな存在』と解釈した。
その上で、この『一つの大きな存在』の運気を劇的に下げる方法を、探ったわけだ。
結城にしかできない離れ業だ。
「汚れか。兵士たちを、なんらかの方法で汚すには、どうすればいいか」
「兵士たちの軽装鎧、綺麗だったわよ。汚れ一つなかったわ」
エミリーの指摘は正しい。汚れることで運気が下がるならば、清潔にしているいまの状態は、逆に運気が上がってしまっている。
(このままだと、ゼール王子の命は無いも同然か)
「ボクに任せてください」
「レラ? よし、わかった、任せる」
レラは汚水溜めより、容器で汚水を回収。
近くの建物の屋上へと外階段を経由して上り、さらに隣の建物へと飛び移って行く。
ショートカットして、兵士たちに先回りするようだ。
やがて、建物群を挟んだ向こう側の路地から、複数の怒声が轟いてきた。
レラが屋上より、兵士たちへと汚水をかけたらしい。
結城は周囲を見回し、路傍に置かれた荷車を見つけた。荷車には干し草が積まれているが、持ち主は近くにいない。
レラが戻ってきた。
結城は干し草の中に、レラを隠す。
間一髪だった。
2人の兵士──鎧は汚水のため汚れている──が、逆走する形で戻って来たのだ。
すでに剣は抜き放たれている。
兵士たちは、結城、リサ、エミリーに、レラの姿を見なかったかと、問い詰めて来た。
もちろん、レラの名前を知るはずもない。レラの容姿の特徴が口にされたのだ。
ただでさえ、リーグ族のレラは、一般的なバル国民より、肌が褐色だ。目立つだろう。
結城たちは、しらを切りとおした。
ようやく納得した兵士たちが、立ち去る。
「兵士だけど、2人しか戻って来なかったわね? 残りは?」
「残りの兵士は、予定通り、ゼール王子を殺しに行ったのだろうね」
鎧の汚れを取る暇などあるまい。
よほどゼールの運気が下がっていなければ、暗殺は失敗するはずだ。
レラを干し草の山から回収し、一行は宿に戻った。
翌朝、ある噂が流れていた。
ポル王子による、ゼール王子暗殺が失敗した、というものだ。
(危なかったけど、ひとまず成功か)
結城は、改めて計画を立てた。
ゼール王子の運気を上げるより、ポル王子の運気を下げたほうが確実だ。
「けど、ユウキ。ポル王子の居場所は、不明のままよ」
エミリーの言う通りだったが、さらに結城は計画を構築した。
その日、レラは宿に残し、結城、リサ、エミリーで出発。
レラは昨日、兵士たちに姿を見られているので、その用心だ。
やがて、結城は目当ての人物を発見した。
厳密には、『目当ての人物』は20人いて、そのうちの1人だ。それは、ゼール王子暗殺に失敗した兵士の1人。
ゼール王子の居住地の付近で網を張っていたところ、見つけることができた。
この兵士は偵察任務で、ゼール王子側の動向を監視しているのだろう。
しばらくして、兵士が移動を開始。ポル王子──またはポル王子の側近──に、報告しに行くはずだ。
よって、この兵士を尾行すれば、ポル王子のもとに辿り着く。
もちろん、目当ての兵士が簡単に見つかったのには、訳がある。
結城たちは、自らの運気を上げていたのだ。
さらに、兵士の鎧は、いまも汚れたまま。つまり、不精したものだから、運気は下がったままなのだ。
運悪く結城たちに見つけられるのも、当然といえた。




