27話 バル国への潜入。
国境越えは、思いのほか楽だった。
転生前の世界だと、密入国も大変だろう。
しかし、この世界では軍隊クラスを動かさない限り、発見される恐れはないようだ。
ただ、国境には地形が利用されることが多く、アルバとパル国境もそうだった。
ある大河が、その国境だ。このときの渡河は、なかなかに骨だった。
現在、結城たちは、バル国内にいる。
バル国民の姿は、アルバ国民と変わらない。つまり、人種的な違いは、ほとんどない。
よって、結城たちがバル国民に成りすますのは簡単だった。
国境越えまでは、執政官の部下が率いてくれた。
が、そのあとは風水ギルドだけでやれ、という指示。
執政官の部下は引き上げ、結城、リサ、レラ、エミリーだけが残ったのだ。
4人は、近くの村まで行き、そこで宿を取った。
「さてと。第一王子ゼール、第二王子ポル。この2人がどこにいるのか、だね。まずは」
結城の部屋に集まり、声を低めて相談する。
エミリーが言う。
「執政官の部下が言うには、2人ともバル国の王都にいるそうよ」
というのも、まだ軍を率いて戦争を始める段階には、至っていないため。
双方とも、内戦で国力が疲弊するのだけは、望んでいないのだろう。
また、アルバのクース国王も、バル国内で内戦が起こることは、やはり望んでいない。
バル国へと侵略する意図があるなら別だが、アルバ国側に、その野心はない。
となれば、火種が飛んで来そうな事態が、隣国で起こるのは考えものだ。
敗戦した側が、アルバ国内に雪崩れ込んでくるかもしれない。
「とにかく、惰弱な兄を王位に付ける。この男なら、他国に攻め入ろうという考えも起きないだろう、とのことだ。つまり、バル国は脅威ではなくなる」
結城は話をまとめ、目指すは王都となった。
バル国内の地理は詳しくない。
とはいえ、バル国の王都行きの駅馬車に乗れば、済む話。
街道の整備は、アルバ国と同程度には行われていた。
結城たちは、常に運気を上げる持ち物を所持。
また、執政官から受け取ったバル国の貨幣もある。
潜入してから7日後、ついにバル国の王都リーベに到着した。
バル国は、アルバ国の北側に位置する国なため、ここまで来ると、かなり気温が下がる。
結城たちは旅の途中で、気候にあった服を購入し、着こんでいた。
バル国の王都リーベは、アルバ国の王都ルセウスと、実に似ている。
高い城壁があり、石造りの建物が並ぶ。
ルセウスよりは、いくぶん道が入り組んでいるか。
ところで、潜入して最も大変に思えるのが、言語問題だ。
バル国の言語は、アルバ国の言語とは異なる。
アルバ国民である、リサ、レラはバル語を話せない。
結城自身もそうだ。結城の場合、アルバ語自体も、脳内で日本語に変換されているわけだが。転生者ならではの、特典だろう。
ただし、それはアルバ語で限定されていた。その証拠に、バル国民の言葉を聞いても、ちんぷんかんぷんだ。
言語問題については、エミリーが解決してくれた。
バル国内に入ってから、結城は知ったのだ。
エミリーが、バル語を流暢に操ることを。
エミリーなどは、「え? あたしがバル語を話せると知っていたから、同行させたのではなかったの?」と、驚いていた。
ということで、食べ物や衣類を購入したり、宿泊手続きしたりは、ぜんぶエミリーに託した。
(エミリーは、僕の想定を超えてくるよ)
バル国の王都リーベで、結城たちは宿を取った。一週間もいると、バル国の料理にも慣れてくる(アルバ国の料理に比べて、辛味が強い)。
「ここからは、ゼール、ポル、どちらかを見つける。先に見つけたほうを、風水鑑定する」
第一王子ゼールならば、運気を上げる工作をする。
第二王子ポルならば、運気を下げる工作をする。
ちなみに、どちらかといえば、運気を下げさせるほうが難易度は低い。
「けど、二人とも王宮にいるのではないの? 王子なんだから?」
「いや、対立構造がハッキリしたあたりで、二人とも王宮には寄り付かなくなったそうだ」
この情報も、執政官からもたらされた。
執政官は、王都リーベにスパイを放っているとか。
が、そのスパイが結城たちに、積極的に協力してくれることはないようだ。
「手分けして情報収集する?」
というエミリーの提案に、結城は答えた。
「いや、ここは敵国の中枢だからね。下手に離れるのは、危険だ。みんなで行動しよう」
団体行動は目立つリスクもあるが、致し方ない。
そう判断した結城は、さっそく出発することにした。




