26話 敵国バルの王位を巡る争い、に関与する
【風水ギルド設立から295日目】
「ユウキくん。風水ギルドを、顧問ギルドに昇格するチャンスだよ!」
ウェンディがそう告げたとき、風水ギルドは順風満帆だった。
南方地域では、ポロ町に支部を作ることで、起点とすることができた。そこから立て続けに3か所、南方地域に、新たな支部を作ることができたのだ。
つまり、南方地域の支部数は4で、東方地域の支部数3を上回った。
風水ギルドの総支部数は、これで7。
本部とあわせれば、このアルバ国内に、風水ギルドの拠点を8か所も設けたことになる。
もちろん、大手ギルドにはまだ負ける。
たとえば魔法使いギルド。顧問ギルドを外されたことで、一時の勢いはなくなった。それでも拠点数は83。
とはいえ、風水ギルドはまだ設立して一年も経っていない。
向こうは三十年クラスの古株だ。
さらにいえば、結城は別に競ってはいなかった。
結城の目標は、王国全土に風水ギルドを広め、風水によって人々の助けになること。
別にギルドのナンバー1を目指しているわけではない。
ただウェンディは、少し違うようだ。顧問ギルドの座に拘る点からしても。
「ウェンディ。僕たちは無理して、顧問ギルドになる必要はないと思うよ」
「聞いて、ユウキくん。アルバ国にとって、最大の敵国はどこだと思う?」
アルバ国は、三国に挟まれている。現在のところ、どこの国とも交戦中ではない。結城の知識は、そんなところ止まりだ。
「いまは、すべて友好国だと思っていたけど?」
「交易しているからといって、友好国とは限らないよ。隙あらば侵略しようと企んでいるんだから」
結城としては、国家間の争いに首を突っ込みたいとは思わない。
一方で、国内が平和だからこそ、風水ギルドも繁栄できるとは思う。
「それで?」
ウェンディの話は、こういうことだった。
アルバ国の最大の仮想敵国は、バル国。
どうやら、このバル国内では今、王位を巡って国王の息子たちが対立しているのだとか。
これは国王(病気で意識不明、先は長くない)が、後継者を指名しなかったことが原因。
とはいえ、通常は兄が王位を継ぐものだが、惰弱な性格らしい。
これでは国の舵取りは任せられないという派閥が、弟に付いた。
第一王子と第二王子の争いである。
「大変だね。けど、僕たちに関係あることかな?」
ウェンディにとっては、関係があるようだった。
アルバ国からしてみれば、バル国の国力は弱まったほうが良い。
つまり、惰弱とされる兄が、順当に王位を継承したほうが良い。
この兄の名を、ゼールという。ゼールが王位につくよう工作したギルドなら、王も喜んで、顧問ギルドに迎えてくれるだろう。
この作戦は、執政官グランのお墨付きでもあるとのこと。
つまり、ウェンディは、極秘任務を受けてきてしまったのだ。
「僕たちは、諜報機関ではないんだよ」
「だけどユウキくん。これまでやってきたことと、やることは同じだよ。デラフ伯やリーグ族、魔法使いギルドのときと、同じ」
ウェンディの説明はこうだった。
兄であるゼールが王位に付けるよう、ゼールの運気を上げる。
または、弟の運気を下げる。
ちなみに弟の名前は、ポルという。
(うーん、確かにそこは、同じかもしれない。けれど僕たちは、お隣の国へ行かねばならない。しかも、仮想敵国という話だ)
結城としては、断りたい。
だが、ウェンディの願いを叶えさせたい気持ちもある。
ウェンディのおかげで、風水ギルドはあるといってよい。
転生した結城を、初めに助けてくれたのが、ウェンディなのだから。
なにより、ウェンディはもう、執政官グランと約束してしまったらしい。
(執政官は、この国のナンバー2。いまさら、できません、とは言えないか)
結城は、「よし、やろう」と答えた。
バル国に潜入するまでは、執政官が手配してくれるという。
結城は、潜入メンバーを考えた。
(僕はもちろんとして、後は誰がいいかな──)
選んだのは、リサ、レラ、エミリー。
ウェンディとブルには、本部の留守を任せる(二人の下には、23人のギルド・メンバーがいる)。
ウェンディは同行できずに残念そうだったが、結城の決定なので受け入れた。
選んだ基準は、こうだ。
実力から、まずリサ。
偵察なども行える、レラ。
機転の利く、エミリー。
出発は、三日後となった。




