25話 龍脈VS精霊、代理戦争の決着。
結城は一つ学んだ。
傭兵ギルドをもってしても、魔法使いギルドには敵わないようだ。
攻撃魔法によって、結城が連れてきた傭兵たちは全滅してしまったのだ。
さすがに命は取られなかった様子だが、みな、気絶している。
(いまの攻撃魔法は、土の精霊によるものかな)
大地から腕が盛り上がってきて、傭兵たちの脳天を叩いたのだ。
結城だけ無事だったのは、風水ギルドのギルド・マスターだからだろうか。
つまり、これが最後の警告ということか。
結城は回れ右して、魔法使いギルド本部から離れた。戦略的撤退は恥じることではない。
(さすが魔法使いギルドだ。デラフ伯のときのように、楽には勝たせてくれないか)
隠れ家に戻り、なにが起きたかを話す。
「衛兵に相談したら、どうでしょうか?」
というのはトムのアイディアだ。
エミリーが首を横に振る。
「ギルド間の争いには、極力、衛兵は干渉しない方針みたいよ。もちろん、無関係な市民が巻き込まれたら別でしょうけど」
結城は、原点に返ることにした。
自らを鏡越しに風水鑑定する。
いま、結城自身の運気を最も上げるためには、ダイヤモンドを身に付ける必要があるようだ。
(こういう場合、ダイヤの等級などは、さほど気にしなくていい)
「エミリー。ダイヤモンドのネックレスを持っていたよね。ちょっと貸してくれる?」
ダイヤモンドを身につけた上で、結城は魔法使いギルド本部に向かった。
倒れた傭兵たちは仲間に回収されたらしく、姿はない。
結城はいま、自らの運気を極限まで上げてきている。
これすなわち、龍脈の力を借りている状態だ。
一方、魔法使いたちは、精霊の力で魔法を使う。
よって、これは龍脈と精霊の代理戦争だ。
結城は、改めて、魔法使いギルド本部の建物を、風水鑑定する。
結城の工作によって、充分に運気は下がっている。そして──。
(あ、これは)
龍脈の流れとは、固定されているものではない。
律動的で、この星に沿って、常に移動している。
いま、龍脈の位置は、結城にとって最上である。同時に、魔法使いギルド本部にとっては、最悪だった。
つまり、ギルド本部内にいる魔法使いたちの運気もまた、ダダ下がり。
ただし、それは虜囚の身である、ウェンディたちにも影響している。
(これは、もうどう転ぶか分からないぞ)
しかし、決断しなくてはいけない。
結城は深呼吸して、魔法使いギルド本部内へと入った。
炎が舞い、水の刃が空を切り、小型の竜巻が通過する。
数分後、魔法使いたちは皆、床の上で伸びていた。
結城を狙って、一斉に放たれた攻撃魔法。
が、すべての攻撃魔法は、結城には命中しなかった。
かわりに仲間の魔法使いたちに、誤って当たってしまったのだ。
いわば同士討ち。
(少なくとも、この戦いでは、龍脈が精霊に勝利したようだ)
結城は先へと進んだ。魔法使いは全滅しているので、襲われる心配はもうない。
虜囚がいるのなら、地下ではないか。
その推測はあたり、なかば地下牢といえる部屋で、ウェンディたちを見つけた。
一応、男女で部屋を分ける程度の気遣いはされていた。
ウェンディが、結城に抱きついた。
「ユウキくん、助けに来てくれると信じていたよ!」
「う、うん、遅れてごめん」
結城はどぎまぎしながら、答えた。
リサが進み出て来て、報告する。リサは虜囚の身ながらも、手元にあるもので、メンバーの運気を上げていたのだ。
現在、魔法使いギルド本部は、様々な要因が重なり、運気は最悪。
しかし、リサの気転によって、虜囚の風水ギルド・メンバー達だけは、『運気の下がり』を食い止めることができた。
結果的に、この救出劇に繋がったのだ。
結城たちは、魔法使いギルド本部を後にした。
翌日。
さっそく風水ギルド本部を再開する。
応援に来てくれたブルも、しばらくは滞在し、手伝ってくれるという。トムも、同じことを志願してくれた。
しかし、結城はトムだけは、ペスカ町へと帰すことにした。
本来のトムの役職は、ペスカ町の風水ギルド支部のサブ・マスターだ。これ以上、支部のトップを借りているわけにもいかない。
「いろいろと悪かったね、トム」
「アニキ、水臭いことを。なにかあったら、また駆け付けます」
ウェンディが言う。
「魔法使いギルドの動向は、これからも監視し続けたほうがいいね」
「けど、魔法使いギルドも、踏んだり蹴ったりよね。あたしたち風水ギルドは潰せず、顧問ギルドの任も解かれてしまって」
というエミリーの感想は、まさしく正論だった。




