23話 魔法使いギルドと戦うにあたり、準備をする。
魔法使いギルドの本部は、王宮の近くにあった。王の顧問ギルドなのだという。
顧問ギルドとは、直接、王のために働くギルドだ。
慣習上、顧問ギルドの枠は一つのみ。
ウェンディは、顧問ギルドになることを目標にしている。
結城としては、風水ギルド勢力が王国全体に広がれば良く、顧問ギルドの地位までは欲していないのだが。
肝心の魔法使いギルドの本部だが、とても重厚な建物だった。石造りである点は、風水ギルド本部と同じなのだが、こうも違ってくるのか。
(やはり、侵入してウェンディたちを救出する、は難しそうだね)
デラフ伯を排除したときと、同じ作戦でいくべきか?
それならば、魔法使いギルド本部の内装などを変え、運気を落とす策だが。
(相手が魔法使いだと、こっちの動きが気取られるかな?)
魔法使いは龍脈の流れを見ることはできない。
一方で、結城は精霊を感知することはできない。
偵察から隠れ家に戻った結城は、待機していたトム、エミリーに話した。
「魔法使いの支援が欲しい」
「あのね、ユウキ。あたしたちは、魔法使いギルドと戦争するのよ。だから、魔法使いは協力してくれないと思うわよ」
「別に、戦争はしないけどね……」
とはいえ、エミリーの指摘はもっともではある、が。
「魔法使いギルドから追放された者、とかなら? 魔法使いギルドに一泡吹かせたい、と思っている魔法使いも、いるかもしれない。探してみてくれないか?」
この任務は、トムに与えた。
エミリーは不満そうだ。
「エミリーは、僕の傍にいて欲しい」
考えを聞いてくれる人が必要なため、だ。
普段なら、ウェンディが担当してくれている役割だった。
なぜか、エミリーは顔を真っ赤にして、もじもじとし出す。
「そ、そう? まぁ、ユウキがそう言うなら、傍にいてあげてもいいけど」
「……え? うん、いてくれ」
(エミリーの反応はなんか変だな)
と結城が考えていると、レラが隠れ家に戻ってきた。
レラは、魔法使いギルドの情報収集に出ていたのだ。
「魔法使いギルドの親玉が、わかりました」
「親玉? ああ、ギルド・マスターのことだね」
レラが報告を続ける。
魔法使いギルドのギルド・マスターは、リロイというらしい。
ギルド・マスターであると同時に、名誉市民でもあるという。
そもそも、魔法使いギルド本部のメンバーは、半数が名誉市民の称号を得ているようだ。
「名誉市民になれるのは、王族や貴族だけかと」
結城が問うと、これにはエミリーが説明した。
貴族ではなくとも、登録料を支払えば、名誉市民になることは可能、と。
ただし、諮問機関に入ることは、登録料を払っての名誉市民では無理だそうだ。
「それに登録料があっても、部外者ではダメよ。あたしたちは大丈夫。もう王都の一員ですからね」
王都にあるギルドの一員なのだから、当然ではある。
名誉市民になっておくと、裁判沙汰などのとき、強みになるという。
結城は、風水ギルド本部から持ってきた巾着を出す。
巾着の中には、金貨が300枚ほど。
「じゃ、魔法使いギルドと事を構える前に、名誉市民になっておこうか」
エミリーは巾着を受け取る。
「任せて。代理登録も有りだから、本部メンバー全員を、名誉市民にしてくるわ」
「まった、安全かな? 登録する施設で、魔法使いギルドに襲われたら?」
「登録手続きをするのは、出張所よ。だから、安全とみていいわ」
出張所は、王宮の一部とされている。
ただ、出張所の建物があるのは王宮ではなく、市街の中だが。
いずれにせよ、出張場内で騒ぎを起こせば、王宮内で騒ぎを起こした、と同じ扱いとなるのだ。つまり、たとえ顧問ギルドの者でも、打ち首ものだ。
エミリーが出発。レラも情報収集に戻った。
結城は一人になった。
転生し、風水師となった。仲間にも恵まれ、ギルドも順調に成長。多くの人たちの役に立てて来た、という自負もある。
ここで魔法使いギルドに潰されるわけにはいかない。
やがて、レラが戻ってきた。浅黒い肌の、精悍な顔立ちの男を連れている。
「やぁ、ブルじゃないか。よく来てれたね」
ブルは、風水ギルドの古株だ。いまはクル町の支部で、リーダーを務めている。
エミリーが放った、応援要請の手紙を受け、愛馬で駆けつけて来たと言う。
ただ、エミリーは隠れ家の場所は記さなかった。手紙が敵に奪われるのを恐れてのことだ。そのためブルは、風水ギルド本部の近くで、途方に暮れていた。
そこをレラが通りかかり、仲間とわかって、案内してきたとのことだ。
結城は首を捻った。
「レラ。ブルを連れて来てくれたのは有難いけど。聞いていいかな? なぜ、ブルが仲間だとわかったのか」
新入りのレラは、ブルのことを知らないのだから。
レラの返答は簡潔だった。
「ブルさんは、自分が風水ギルドの者であると、名乗りましたよ。風の精霊が、それは真実と教えてくれましたし」
「え、風の精霊? まさか、レラは魔法使い?」
「いえ、魔法使い、というほどではありません。風の精霊が、ほんの気まぐれに、他人の言葉の真偽を教えてくれるだけですから」
レラの説明では、彼女は魔法使いとなる素質はある。
しかし、魔法使いとしての訓練は受けていない。
よって、魔法使いとは言えない。
(魔法使いになる道もあったのに、風水師を選んでくれたのか。たとえ、族長の指令だったとしても、ありがたいなぁ)
「レラ。君は立派な魔法使いだ。いろいろと助言して欲しい」
こうして結城は、魔法使いの支援者を得た。




