20話 風水工作で、アレク山脈を鬼門にする。
風水ギルドの資金を使い、用水路の流れを変える。
少しの変更だが、これによって龍脈の流れが、連鎖的に変わる。
というのも、龍脈とは大地の力。
大地に満ちる力の一つが『水』。
結城は、この『水』を変更したのだから。
こうして起こったことは、アレク山脈自体が、一種の鬼門と化すことだ。
すなわち、アレク山脈に居座るリーグ族全体の運気が、ぐんと下がった。
運気が元に戻るまでは、リーグ族に属する者たちは、不運が連続する。
狩りに失敗したり、毒草を食してしまったりと。
並行して、結城は密書で、ウラと連絡を取っていた。
ウラとは、リーグ族の族長ロボクの助言者。彼の兄であるラウも、同じく助言できる。宰相が二人いるようなものだ。
ウラは結城の持ち込んだ和平の提案に、肯定的。
一方、ラウは反対している。
結城の狙いは、ラウの運気を下げ、ウラの運気を上げることだった。
さて、結城がこっそりとウラに贈ったものがある。
水晶だ。肌身離さず持っているようにと指示した。
この水晶が、ウラのラッキーアイテム。水晶を所持していれば、ウラだけは、用水路変更の運気下がりの影響を受けない。
すなわち、リーグ族の中で唯一、ウラの運気だけが下がらない。
片や、ラウの運気はぐんと下がることになる。
この細工が終わったのが、族長ロボクに謁見してから、18日目のこと。
3日後に再度訪れると約束したので、約束を違えてしまったことになる。
結城としても、3日と言った自分の見通しが甘かったことを、認めざるをえない。
工作完了の5日前には、密使がウラからの手紙を届けてきた。
その手紙には、ロボクがラウの意見に傾き始めている、とあった。
(まぁ、僕は約束を破ってしまったわけだから。ロボクにとって、風水ギルドの心証が悪くなるのは仕方ないか)
だが、結城の工作が発動したことで事態は変わったのだ。事の動きは、逐次、和平賛成のウラから、手紙で報告された。
まず、和平に反対しているラウの信用が落ちる事態が、起きた。
ラウには婚約者がいたのに、別の女を囲っていたらしい。これが発覚したとのこと。
普通なら、さほど問題にはならないだろう(現代日本とは文化も違うわけで)
ところが、この婚約者が、ロボクの孫娘だったのだ。
ロボクが怒り狂ったのは、想像に難くない。
この不貞については、結城が工作する前から行われていた。
そういう意味では、運気を下げたことと、直接には関係がないようにも思える。
ただし、この絶妙なタイミングで、おおやけになったのは、やはり風水鑑定のなせる業だ。
さらに、結城が自身で上げておいた、仕事運も利いてきた。
ロボクが信頼している人物が、アレク山脈に戻ったのだ。彼はリーグ族ではないが、ロボクとは古くからの友だという。
この人物が、風水ギルドは信頼に値するギルドである、と話してくれた。おそらく、風水ギルドに依頼したことがあるのだろう。
(僕が担当したのなら、〈五行極め〉すれば、すぐに思い出せるのだけどなぁ)と、結城は思う。
〈五行極め〉は、人物識別の効果もある。数えきれない人たちを風水鑑定し、顔は忘れてしまっても、その人の五行を見れば思い出せるのだ。
これらのことがあった後、結城は再度、アレク山脈へ。
ロボクとの謁見の許可を得たところで、まずは約束を違えたことを謝罪した。
ロボクは、リーグ族が王に忠誠を誓う用意はある、と返答。
ただし、いまさら平坦な地に領土はいらないという。山岳民族として狩猟生活をしてきたので、農地を耕したりはできないと。
結城も、それはそうだ、と思った。
リーグ族が、これまで通り、アレク山脈で暮らす権利。それがロボクが求めたものだ。
アレク山脈自体は、アルバ国の国土。どこの諸侯の領土でもない。あえていうなら、王の直轄地。
一方で、リーグ族が略奪行為を働くポロ町は、ある伯爵の領地。
その伯爵が討伐隊を、時おり送り込んで来るそうだ。それを中止するよう、王から命じてくれ、ということらしい。
結城は内心で、(略奪行為さえしなければ、討伐隊が送られることはないんだがなぁ)と思った。
さらにロボクは、毎年、一定の財貨を要求。これまでは近隣の町村を襲って得ていた分を、保証せよ、というのだ。
結城は了承した。
そして、最後の要求が来た。これは結城にとっても、予想外の内容だった。
その内容とは──リーグ族の者から一人、風水ギルドに入れるように、とのこと。
リーグ族は未来のため、風水スキルを取り入れるつもりのようだ。
風水ギルドに送られることになった者は、まだ年端もいかない少女だった。
名前は、レラという。
結城は族長に頭を下げた。
「すべて、かしこまりました」
ポロ町に戻ったところで、結城はエミリーに言った。
「王が財貨まで出してくれるとは思えない」
「だけど、了解しちゃったわよね?」
結城は溜息をついた。リーグ族への毎年の財貨は、風水ギルドが肩代わりすることになりそうだ。
何はともあれ、風水ギルドは次の三つを得た。
リーグ族との和平を完了させたことで、王からの評価を上げた。
ポロ町に、南方領域で、初の風水ギルド支部を得た。
そして、新たな風水ギルド・メンバー、レラを得た。




