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2話 町長の脅迫問題を解決。風水師として名を売る。

 最初の依頼者エミリーの件は、大成功だった。

 ただ無料で行ったので、結城は一円も稼いでいない。

 この世界の通貨単位でいえば、一バルも、だ。ちなみに500バルで、ビール一杯を注文できる。一バル=一円という感覚で、問題なさそうだ。


(兎にも角にも、風水の信頼が根付くまでは、我慢だ)


 風水師を始めた結城だが、まだ居酒屋の厨房の仕事を辞めていなかった。風水業が軌道に乗るまでは、兼業となりそうだ。


「ユウキくん、フースイだっけ? 上手くいってるの?」


 休憩時間のときだ。ホール担当のウェンディが、そう声をかけてきた。

 彼女には、風水業の営業許可を取るとき世話になった。年齢は22。艶やかな黒髪に、こげ茶の瞳をした、美しい女性だ。

 転生前の年齢ならともかく、いまの結城の年齢は21。デートに誘っても、問題はない。


(だけど、いまは風水業を軌道に乗せるほうが、重要だ。他のことに、意識を取られている暇はないか)


 それでも、と結城は訊いてみた。


「ウェンディさんって、恋人とかいるの?」


「うん? いないよ」


「そう」


 翌日。朝早くから、結城は風水業を開始した。といっても、道端にテーブルとイスを置くだけだが。


(早くギルド本部が欲しいな)


 情報収集したところ、この国には、ちゃんと四季があるようだ。いまは秋口。これからどんどん寒くなる。


(雪降る中も、道端で働くのは嫌だな)


 ふと結城が気づくと、目の前には40代の男が立っていた。この世界にしては、上等な衣服を着ている。金回りの良い人のようだ。


「いらっしゃい」


 男は迷っている様子だった。


「風水、というのだったか?」


「はい。もしかして、エミリーさんのご紹介で?


 結城は、男が誰だか思い出した。町長だ。

 結城のいる町は、ロツペンという。町長は、この地方の領主より、ロツペン町の管理を任されているのだ。いわばロツペン町の、最大の大物。


「風水鑑定では、五行や氣の流れを見ます……とにかく、運気を上げるための助言ができますよ。そして、それは正確です。なぜなら……風水とは、魔法の親戚ですから」


 実際は、魔法とは似て非なるものだ。ただ今は、そう言っておいたほうが、信用されるのではないか。

町長の顔が明るくなった。


「なるほど。魔法のようなものか。それなら納得できるぞ」


 やはり、と結城は思った。この世界では、魔法への信頼を借りるのが、早道のようだ。


「なにがお困りで?」


「うむ。実は──」


 数日前から、町長のもとに脅迫状が届くようになったという。勇者ギルドに相談したが、いまだ脅迫状の送り主は、見つけ出せていない。

 どうやら犯人は、脅迫状を、魔法で送り届けているらしい。これでは勇者ギルドもお手上げだ。


 ちなみに、警察的な仕事は、勇者ギルドが行う。城塞都市の規模になれば、衛兵の役割となるようだが。


(ふうむ。エミリーさんのときよりは、骨だぞ)


 まずは、大地の氣の流れ、すなわち龍脈を『視る』。龍脈を視認することができるのは、風水鑑定スキルを持つ、結城だけだ。

 つづいて、九星の方位を確かめるため、風水定位盤スキルを発動。視界に、風水定位盤が表示される。

 町長の運気数値も表示された。悩みを抱えているだけあって、マイナス32という数値だ。


(脅迫されるということは、人間関係の運に問題あり、か。それなら、上げさせるのは人間関係運)


 その人に表示される運気の数値は、総合値に過ぎない。運気には種類がある。どの種類の運気を上げさせるのが、最も効果的か考えるのも、風水師の仕事だ。


「町長のお宅にうかがっても?」


 町長の案内で、徒歩15分ほどのところにある、町長の邸宅へ。

 見るのは、邸宅の玄関だ。


(あ、これはいけない)


 町長宅の玄関に対して、お隣の建物の角が向いている。これでは、人間関係運が著しく下がってしまう。早急に対処しなければ。


「町長。お宅の玄関の右前に、植物を植えてください。立木がいいでしょう。隣の家の角から、玄関を守らなければなりません。そうしないと、脅迫状だけでは済まなくなるかも」


 町長は慌てた様子で、うなずいた。


「よ、よし、さっそく使用人にやらせるとしよう」


 数日後、町長がまた、結城のもとにやって来た。

 両手で包むようにして、握手される結城。


「玄関の前に立木を植えてから、脅迫状が来なくなった。それどころか、脅迫状の犯人が、名乗り出てくれたのだ。すべては些細な誤解が原因だった。その誤解も解けたので、もうなにも心配ない。ありがとう、君のおかげだ」


「お役に立てて、光栄です」


「まだ、風水鑑定のお礼をしていなかったね。いくら支払えばいいかな?」


 結城は頭をかく。値段設定を、失念していたのだ。

 結城が悩んでいると、町長は5万バル分の銀貨を出した。


「これでは、足らないだろうか?」


「いえ、とんでもない」


 こうして、風水鑑定の値段も決まった。

 一回、5万バルだ。


(少し高すぎかな……いや、僕の風水鑑定は、依頼者の人生を上向かせる。これは妥当な値段だぞ)


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