18話 族長との謁見。
馬上の人になって数時間。アレク山脈に入ると、わかりやすい道はなくなった。その中でも、獣道を探して前進する。
急な斜面が増えたので、馬から降りた。
これ以上、無理をすると落馬しかねないと、エミリーの判断。このメンバーの中だと、馬術に優れているのは、断然にエミリーだった。トムの実力は、結城とほぼ同じ。そのエミリーが言うのだから、正しいのだろう。
野営する予定はなかった(夜を迎える前には帰還する予定)ため、結城たちは軽装だ。
山を登るにあたって、重たい荷物がないので楽ではある。
徒歩となった一行の中、誰よりもエミリーが身軽に進む。エミリーはこの手の山登りにも慣れている様子だ。トムも元農夫だけあって、体力には自信があるはずだが、早々にバテた。
「アニキ、面目ないです。ずっと平坦な土地で暮らしていたものでして」
「少し休もう」
結城の提案で、小休止となった。水筒で水分補給し、干し肉で軽い食事を取る。
「あっ」と気づいたときには、周囲を複数の男たちに囲まれていた。
みな武装している。
一方、結城たちは武器を持っていない(真っ赤な盾はあるが)。ポロ町で、武器を購入することもできた。が、どうせ武術は素人なのだ。下手に武器は持たないほうが、交渉しやすい。
結城は口の中の干し肉を、水で流し込んだ。
(風水鑑定による開運が、どこまでのものか。いま、試されようとしているのか)
武装した男たちは、もちろんリーグ族だ。蛮族とされているが、かつてはちゃんと国家があった人たち。
結城は彼らを刺激しないよう、ゆっくりと立ち上がった。
まずは、どう発言するべきか。
〈龍視〉で龍脈の流れを確認。龍脈から溢れるエネルギーは、結城の未来とも繋がる。
結城は、数秒後の未来で発言する内容を、考える。それに呼応して、龍脈のエネルギーが反応する。
(これで良さそうだ)
「僕たちは、王の使者だ。和平交渉に来た」
運気が低ければ、この時点で、殺されていた。
リーグ族にとって、アルバ国の王は憎い敵なのだ。
しかし、どういうわけか彼らは、殺意を抱かなかった。それどころか、『王の使者』と自称する男の話を聞いてみよう、と思った。
結城の運気の高さは、リーグ族の感情にも影響を与えたのだ。
こうして、結城たちは連行された。このとき身体検査があった。武器を隠し持っていたら、ややこしいことになる所だった。
もちろん、結城たちは非武装。これもまた、プラスに働いた。
結城たちが連れて行かれたのは、リーグ族の集落の一つ──ということだ。
リーグ族は、一万人近くいるらしい。山脈内で、小規模な集落を複数作り、暮らしている。しかし、集落は複数あっても、それらを率いるのは一人。
族長のロボクだ。
結城たちは、族長ロボクに謁見できることになった。
(思いがけない、とんとん拍子さ。これも開運の成せる業だね)
ロボクの前に、結城は跪いた。後ろでエミリーとトムも倣う。
ロボクは、初老の男。険しい場所で生活しているためだろう。皺こそ深いが、肉体は若々しい。
(僕たちに武器があっても、族長一人に倒されそうだ)
とはいえ、結城たちは戦いに来たわけではない。結城は、チラッと後ろを見て、二人の様子を確認。トムは怯えた様子。一方、エミリーは興味深そうに、周囲を見回している。
エミリーのほうが、肝は据わっているようだ。
結城は、ロボクに向かって話した。
クース王には和平の準備があり、結城が代理で来たことを。和平のための要求を伺いに来たことを。
ロボク、すなわちリーグ族の要求は、やはり領土だった。
結城は、領土を与えられるにはクース王に忠誠を誓うことが条件となる、と話した。
その上で、これまでの略奪行為は恩赦となるよう、取り計らうとも。
(執政官の感触から、これくらいなら許されそうだ)というのが、結城の読みだった。
事前に風水鑑定もしてあるので、大丈夫だろう。
ロボクには、二人の側近がいた。兄弟らしい。兄がラウ、弟がウラと名乗った。
ロボクは、結城の提案をどう思うか、と側近二人に問いかける。
結城は〈五行極め〉を発動し、兄弟の五行を見た。
内心で、おや、と思う。
この二人、五行からして、相性が最悪だ。
ということは、と結城は考える。
(片方は、提案を受け入れるべき、と助言するだろう。もう一方は、提案を受け入れてはいけない、と助言するだろう)
そして、結城の想定した通りとなった。




