16話 風水ギルド、蛮族の対処に乗り出す。
【風水ギルド設立から204日目(王都ルセウスに本部を移してから、63日目)】
王国の南方地域で、風水ギルド支部の設立に適した場所を探す。
結城の希望としては、中規模な町だ。
閑散とした村では、需要は見込めない。一方で、都市といえる規模になると、デラフのときのように妨害にあいかねない。
(ペスカ町くらいが、丁度いいなぁ)
最終的に、三つの町が候補となった。
が、ルセウスからでは、詳しい情報は得られない。
そこで結城は、リサを送り出すことにした。結城自身が本部から離れるのは、まだ早い。王都に確固とした地盤を築けた、とまでは言えないからだ。
そうなると、信用の置ける者を送り出し、代わりに町の様子を見てもらうのが、一番。
ウェンディやエミリーでもいいが、リサなら町ごとに、風水鑑定を行い、風水ギルドとの相性も見られる。
かくして、リサは出立。
結城は、リサから経過報告の手紙が届くものと思った。
が、音沙汰なし。手紙を送るように指示しなかったことを、後悔した。
リサには、独りで進めたいところがある。結城が指示すれば、ちゃんと仲間と協力もできる。が、指示は必要だ。
これがウェンディやエミリーなら、定期的に手紙を送り、進捗情報を知らせてくれるだろう。しかし、リサの場合、それをして欲しかったら、いちいち指示をする必要があるのだ。
(3つの町の視察を終え、リサが帰って来るまでは、なんら情報は得られそうにないぞ)
結城の予想では、3週間はかかる行程だった。
町間を移動するのにも時間がかかるが、現地で何拍かし、町の感じも掴まなければならない。つまり、風水ギルドをより受け入れてくれ易そうなのは、どこの町なのか、を。
リサが帰還したのは、想定より早い、17日目だった。
「師匠。候補の3つの町ともに、問題がある」
旅の疲れを癒す前に、リサはそう報告した。
「問題?」
「ギルダ町は、コル教の力が強い」
「コル教か……コル教の教義からすると、風水は異端だったね」
かなり前の話だが。コル教の司祭が、風水ギルド本部(まだロツペン町のころ)にやって来た。
司祭いわく、龍脈という概念が、異端なのだとか。
コル教は国教であるため、できる限り、表立った対立は避けたい。
「ポロ町の近くには、アレク山脈がある」
「アレク山脈には、蛮族がいるんだったね」
時おり、その蛮族は降りて来て、ポロ町で略奪を行うという。
「ベル町は、デラフ伯爵の領地」
「え、それは気づかなかった!」
地図には、どこの領主の領土か、までは記されていないのだ。
「デラフが、南方地域の領主なのは知っていたけど」
リサの指摘どおり、どこの町にも問題がある。
「リサ。これらの問題を抜かせば、町の雰囲気はどうだろう?」
「ギルダ町では、コル教の信者が多い」
「すると、時間がかかるね。町民の中で、風水ギルドが評価されるまでの時間が」
コル教の信徒にとっても、風水は異端に見えるだろうからだ。最悪、町民から攻撃されかねない。
「ギルダ町は却下だね。とりあえずは」
コル教と抗争するのは考えものだ。
とはいえ、どこかの時点で、コル教とぶつかるような気もするが。
「デラフ領土も危険だね。すると、消去法で、ポロ町だ」
リサの報告を一緒に聞いていたウェンディが、心配そうに言う。
「だけど、心配よ。蛮族、つまりリーグ族のことが」
アレク山脈に住まう蛮族の名が、リーグ族。
なんでも、一世紀前までは、リーグという国家があったそうだ。
アルバ国に国土を併合されたさい、アルバ国の支配下に入るのを拒否した者たち。彼らはアレク山脈に逃げ延びた。
彼らの子孫が、いまのリーグ族だ。
エミリーが挙手する。
「リーグ族は、王も頭を悩ましていると聞くわ。このさい、ユウキが、滅ぼしちゃったら? そうしたら、王の覚えも良くなるわ」
いくら風水でも、一つの民族を滅ぼすことなどできない。可能だとしても、結城の望むことではない。
「まてよ。滅ぼす必要はないかも。和平さえ結べればいいのだから」
「けどね、ユウキ。その和平が結べずに、百年も経っているのよ」
「しかし、僕たちには風水がある」
リーグ族と和平を結べば、ポロ町にも安心して、支部を設立できる。
「とはいえ、さすがに独断では動けないか。王の許可がいる──よし、ウェウ伯に、貸しを返してもらおう」
「どうするの?」
結城は答えた。
「王に謁見する」




