13話 風水ギルドの敵を潰すため、ユウキは風水鑑定を決意。
【風水ギルド背設立から152日目】
アルバ国の王都ルセウスに、風水ギルドの本部を開いてから、二週間ほど経った。
宣伝ギルドのおかげで、それなりの依頼者はやって来ている。
口コミ効果も、少なからず機能しているだろう。
が、結城たちが望むほどの人数には達していない。
どうも、水面下での妨害工作があるようだ。
ある夜、伝書梟で書簡が届いた。一読するなり、ウェンディが結城に報告。
「ウィウ伯が、王都にいらっしゃるみたい。諮問機関の会議に参加するためとか」
「名誉市民だけあって、ウィウ伯も諮問機関のメンバーだったのだね」
「妨害してくる機関員がいること、相談してみる?」
結城は、〈風水定位盤〉を表示する。届いた書簡の運気を確認。
(風水ギルドとの、運気的な相性は良さそうだ)
つまり、ウィウ伯より届いた手紙に対しての、風水ギルドの返事の運気は良い。よって、返信することで、良い結果をもたらすだろう。
「では、ウェンディ。相談内容のほう代筆してくれ」
この世界の文字も勉強してはいるが、まだスラスラ書けるには程遠い結城だった。
三日後。
ウィウ伯は、風水ギルド本部をいきなり訪れ、結城を驚かせた。
「閣下」
「いま、都合が悪くなければいいのだが。妨害工作の件を聞いて、直に相談したいと思ったのだ」
「そうでしたか。わざわざご足労いただきまして、申し訳ありません。ご連絡いただければ、こちらから伺いましたのに」
ちょうど依頼者もいないところだったので、応接スペースにウィウ伯を案内する。
「さっそくだが、妨害工作されているというのは、間違いないのだな?」
結城は、初日の衛兵の件を話した。
また、王都内では、このような噂があることも。
『風水ギルドに関わった者は、逮捕される』という根も葉もない噂が。
ウェンディなどは、この噂の出どころは、『諮問機関にいる風水ギルドの敵』と確信している。
数日前、ウェンディは結城に対して、このように説明した。
「実際に逮捕者は出ずとも、こんな嫌な噂が出回っているだけで充分。たいていの人は、風水ギルドに依頼に行くのを、躊躇っちゃう」
(風評被害という感じか)
「しかし、この手の噂を取り消すのは、難しいよ」
結城がそう言うと、ウェンディもうなずいた。
「噂の出どころから絶たないと、そうかも」
この件を結城が話したところで、ウィウ伯は「デラフ伯爵か」と呟いた。
「デラフ伯爵、ですか?」
「国境沿いに領地を持つ男だ。諮問機関に入って、まだ日が浅い」
「風水ギルドに恨みでもあるのでしょうか?」
「マグド村を知っているか? 自由村の一つだ」
自由村とは、どこの領土にも属さない村だったか。
「マグド村は豊かな土地にある。統合できるに越したことはない」
「はぁ。マグド村と、デラフ伯爵、そして風水ギルドの関りとは?」
ウィウ伯爵は説明した。
マグド村は、デラフの領土と接している。
前述の理由から、デラフはマグド村を統合しようとした。
つまりは、そこの農地をわが物にしようとした。さらに村民は農奴にしようとも。
そのさい、マグド村に対し、手荒な手段を講じることも辞さない構えだった。
が、そのために派遣した私兵たちは失敗した。
全ては、ちょっとした災難が重なっての、失敗なのだ。
マグド村に向かうまでに、鉄砲水に巻き込まれたり、不可解なほど強いモンスターが出現したり、などなど。
私兵の全滅が繰り返される中、デラフもおかしいと気づいた。
そこまで話を聞いて、結城は「あっ」と声を上げた。
「マグド村の件、思い出しました。ただ村名までは、尋ねなかったもので」
「やはり、マグド村の依頼を受けていたのだな?」
「はい。村長が直々に来てくれまして。悪辣な貴族に脅かされているので、対処したいと。穏便な方法で撃退したいとの話でした」
「では、デラフが派遣した兵士が全滅し続けたのも?」
「風水鑑定の力です」
ウィウ伯は感嘆した様子だった。
「風水とは、それほどの力があるものなのか」
「並大抵の開運では、ありませんでしたが。僕が村長に指示したのは、とても複雑な内容でした。村民全員が、守らなければならなかった。たとえば、すべての村民が、自宅の西北に家具を置く、などです。小さな運気上昇が積み重なり、ついには自然の力を味方に付け、デラフ軍を撃退したのでしょう」
結城は誇らしく思った。風水鑑定の言いつけを守り、大きなことを成し遂げた村民たちのことが。
「遠い村でしたので、その後どうなったのかは、知らずじまいでした。いまの、いままでは」
「デラフ伯は、嗅ぎ付けたのだろう。マグド村の裏には、風水ギルドがいると」
一緒にいたウェンディが、怒りの滲んだ口調で言う。
「それで、妨害してきているの? 風水ギルドが王都にやって来た、この機会を狙って? ひどい話だよね。閣下、デラフを止めてはいただけないでしょうか?」
結城は片手を上げて、ウェンディを止めた。
「いや、これは僕たちの問題だ。閣下の手を煩わせるわけにはいかない」
ウィウ伯に貸しを作るのを避けたい、という気持ちもあった。
ウィウ伯は味方ではあるが、やはり貴族だ。慎重な関係を築くべき。少なくとも、いまはまだ。
(とはいえ、情報くらいは貰ってもいいよね)
「閣下、お尋ねしてもよろしいでしょうか? デラフはいま、自分の領地ではなく、この王都ルセウスにいるのでしょうか?」
「いかにも」
「では、滞在先は?」
ウィウ伯の目が鋭く光った。
「滞在先を聞いて、どうするつもりだね?」
「はい、デラフの風水鑑定を行います。潰すために」




