12話 諮問機関の中に、敵がいると判明。何はともあれ、王都でついに本部を開く。
風水ギルド本部前で張っていた衛兵は、王の諮問機関から派遣されたということだった。
諮問機関とは、王の補佐的な役割を持つ。
諮問機関の構成は、位の高い臣下からなる。ウェウ伯爵も参加しているかは不明だ。
ウェンディが、結城に耳打ちする。
「諮問機関に属する者たちは、個別に、王都の各ギルドと繋がりがあるそうよ。自分の贔屓のギルドがある、ということだね」
「つまり、支援するギルドの影響力を利用できる、ということか」
結城は推測した。
風水ギルドの存在が、どこかのギルドにとって、不利益となる。諮問機関の中に、『不利益となるギルド』と繋がりのある者がいて、衛兵を寄こした。風水ギルドを妨害するために。
そういうことではないか?
「我々と、ご同行願おうか?」
衛兵がそう言うので、結城は尋ねる。
「なぜでしょうか?」
衛兵いわく、風水ギルドが王都の法を破っている疑いがあるから、と。
結城が転生した国は、アルバという。
つまり、アルバ国の王都がルセウスだ。
アルバ国には、当然ながら、法律がある。これは一般に『王の法』と呼ばれる。
一方で、王都には『王の法』にプラスして、王都独自の法律がある。
このような情報を、結城は事前に仕入れていた。
もちろん、風水ギルドはどこの法も破ってはいない。単なる嫌がらせだろう。
とはいえ、大人しく付いて行けば、無実でも牢獄行きの危険がある。
(僕たち自身の運気は、それなりに上げているけど。ここは、もう一押し)
結城は、〈風水定位盤〉、〈龍視〉、〈五行極め〉のスキルを連続発動。
衛兵はみな、軽装鎧を装着し、腰に長剣を下げている。剣の柄の色を見て、これはツイている、と結城は思った。
このツキは、寒色系を着たことで、運気を上げておいたおかげだ。
「一つ忠告しましょう。赤いものを身に付けていると、運気が下がりますよ。剣の柄が赤いですね。すぐに捨てたほうがいい。不運が、とくに動物に関連して起こりますよ」
そう言ってから、結城は衛兵たちから数歩離れた。ウェンディとエミリーが、同じく後退する。
衛兵の一人(気が短いようだ)が、剣を抜いた。
「なにを訳のわからないことを──」
最後までは言い切れなかった。
別の路地から、暴走した二頭立て馬車が飛び込んで来たからだ。
衛兵たちは轢かれ、馬車は横転。ハーネスが外れたため、二頭の馬は走り去った。
結城は様子を確認した。
衛兵たちは命に別状なさそうだが、負傷している。これでは、結城たちを捕まえるどころではない。
「せっかく忠告したのに」
結城はそう呟いてから、風水ギルド本部に入った。
「ユウキくん。いまの衛兵たちに指示を出した人、きっと諦めないよ」
そう言うウェンディに対して、結城はうなずいた。
「早いうちに、手は打ったほうがいいね。でも、そのためにもまずは、風水ギルド本部をオープンすることだ」
本部内には、必要な家具類が運び込まれてあった。
ウィウ伯に頼んでおいたのだ。運び込んでくれたのは、配送ギルドの人たちだが。
オーク材のテーブルの後ろにある椅子に、結城は腰かける。
「風水鑑定をして、家具の位置を決め直したほうがいい」
エミリーがテーブルに座って、
「ねぇ、ユウキ。風水ギルドの宣伝とか、するんでしょう?」
「必要かな? 大きな都市だし、放っておいても、好奇心旺盛な市民が来てくれそうだけど」
まずは数人でもいいから、依頼者に来てもらって、満足してもらうことだ。
そのあとは、口コミで、風水ギルドの名を広めることができるはず。
結城は、そう自信を持っていた。実際、ロツペン町では、そうやって風水ギルドの地盤を固めていったのだから。
しかし、エミリーは首を傾げる。
「どうかしら。これだけの都市だと、逆に埋もれてしまうかも」
「……なるほど。それで、宣伝というと、どうすればいいのかな?」
「宣伝ギルドに頼むに決まっているでしょう」
さっそく、結城は宣伝ギルドを訪れた。
宣伝費がいくらかかるか判らなかったので、ある程度の軍資金を持って。
結城を担当した宣伝ギルド員は、次のようなことを提案してきた。
王都内を行き来する乗合馬車に、風水ギルドの名前と内容を記したものを、貼り付けるのだ、と。
ただし、それなりの経費はかかるとも。
結城は念のため、金貨も所持していた。これを8枚も使うことになったが、効果は抜群と請け合ってもらったので、依頼することにした。
(ようは、現代日本でいうところの、電車の吊り広告かな)
結城としては、吊り広告で、なにかを買った覚えはなかったが。
(まぁ、ダメ元でも、やっておこう)
3つの支部を持つだけあって、風水ギルドの資産は、なかなかのものになっていた。金貨8枚は、失敗しても惜しくはない。
結城は本部に戻り、ウェンディとエミリーに報告。
意外にもウェンディは、金貨8枚は高すぎ、とのコメント。
反対にエミリーは、妥当な額よ、とのこと。
「まぁ、何日か経てば、ハッキリするよ」




