11話 王都にギルド本部を移すも、敵対者が現れる。
【風水ギルド設立から134日目】
風水ギルドの本部を、王都ルセウスに移すときが来た。
その前夜は、ロツペン町総出での送別会をしてもらった。
風水ギルド自体は残るが、結城、ウェンディなど主要メンバーは、ロツペン町を去るからだ。
はじめは道端にテーブルを置いて始めたのだった。
それがこうして、ロツペン町になくてはならぬギルドにまで成長できた。
結城は感無量だった。
翌日。
結城たちは、ロツペン町に残るギルド・メンバー──つまり、ロツペン町の『新』支部メンバー──に見送られて、出発した。
今回は乗合馬車ではなく、風水ギルド専用の馬車だ。
これは、王都への長旅に備えて、購入したもの。旅の安全のため、出発前に風水鑑定をしたのは、言うまでもない。
6日後、一行は王都ルセウスに到着。
風水ギルド本部となる建物と土地は、すでに風水ギルドの名義となっている。
不動産購入にあたっては、ウィウ伯が協力してくれて、スムーズに進んだ。
到着したころは、夕刻だった。結城は指示を出す。
「本部に行くのは明日にして、今日は宿に泊まろう」
ルセウスでの、それぞれの住まいも探す必要がある。それまでは宿住まい、またはギルド本部に泊まり込みとなるだろう。
翌朝。宿で朝食を取ったのち、まずは代表として、結城、ウェンディ、リサ、エミリーが、本部へと向かう。
王都というだけあり、街並みには朝から活気があった。
結城が軽く感動したのは、道路がすべて石畳であることだ。ロツペン町は自然のままだったので、都会に来たな、という気持ちになる。ちなみに、建物は石造りと木造が半々。
本部に到着する前に、トムが走って来るのが見えた。
サブ・マスターであり、ペスカ町の風水ギルド支部のトップでもある、トム。
実は、本部が軌道に乗るまでは、助っ人に来てくれることになったのだ。トム自身は、結城たちとは別ルートで、ルセウスに来ていた。
「アニキ、お久しぶりです」
「あー、久しぶりだね」
トムは、結城のことを、アニキと呼んでいる。
トムのほうが年上なので、結城としてはいまだ落ち着かない。
また、リサからは師匠と呼ばれており、そっちも落ち着かないが。
「わざわざ迎えに来ないでも、本部で待っていてくれて良かったんだよ」
結城がそう言うと、トムは顔を曇らせた。
それだけで、問題が起きたな、とわかる。
「どうかしたの?」
「よくわからんのですが」
すると、エミリーが鋭く言う。
「よくわからない、じゃ、わからないでしょ」
エミリーとトムは古くからの知り合いだ。自然、当たりも強くなるのか。
トムは結城に答えた。
「本部の前に、王都の衛兵が張り付いています。それも5人も。誰の命令かは、わかりません」
結城は思い出す。ロツペン町やペスカ町では、警察の役割も勇者ギルドが担っていた。
しかし、王都ルセウスでは、勇者ギルドの仕事は、モンスター退治に限定される。
王都内で、警察の立ち位置にあるのが、衛兵だ。
「うーん。風水ギルド本部の前にいるのだから、僕たちを待っているのは間違いないね」
エミリーの顔が青ざめる。
「あたしたち、逮捕されるのかしら?」
ウェンディが言う。
「なにも悪いことしていないじゃない。……けれど、王都に風水ギルドが置かれるのを、快く思っていない人がいるのかも」
結城は、なるほど、と思う。
『風水ギルドを快く思っていない人』が、衛兵に命じているのかもしれない、と。
すなわち、風水ギルドの『敵』が。
結城は指令を出す。
「いきなり逮捕はないだろうけど。念のため、こうしよう。リサとトムは、宿に戻って待機。僕たちが戻って来なかったら、ウィウ伯と連絡を取ってくれ」
結城はリサと目をあわせ、
「いざというときは、君の風水鑑定スキルが頼りだ」
リサはうなずいた。
「了解した、師匠」
結城は、ウェンディとエミリーと共に、風水ギルド本部を目指した。
そこの角を曲がれば、本部の建物前の大通り──というところで、いったん停止。
「僕たちの運気を上げるのを、忘れていたよ」
〈風水定位盤〉、〈龍視〉、〈五行極め〉。
三つのスキルを一斉に発動。結城は素早く、自身、ウェンディ、エミリーを風水鑑定。
「厄介ごとに巻き込まれないためには、寒色系の服を着ることだ」
風水鑑定の結果を口にしてから、結城は自分たちの服を確認する。
寒色系の服といえるのは、ウェンディだけだった。
「ユウキくん、私だけが行こうか?」
エミリーが挙手して、
「2ブロックほど前に、衣料品店があったわ」
結城たちは引き返し、衣料品店に入った。
結城とエミリー用に、寒色系のローブを購入。
いま着ている服の上から、纏う。
「これで、開運は問題ない。さ、衛兵と話を付けに行こう」




