10話 毒殺未遂犯を捕まえ、伯爵に恩を売る。
ウィウ伯爵の近衛兵は、ぜんぶで12人いた。
ちなみに戦争などで国王のため出兵するときは、領民を徴兵する。
結城は、12人に対し、風水鑑定をする必要があった。
が、『ウィウ伯の毒殺未遂犯を特定するため』と言っては、警戒されるだろう。
そこで一案。
「閣下。私のことは、次のようにご紹介ください。皆の運気を上げるため、風水鑑定を行う者、と」
ウィウ伯は、結城の求め通りに、近衛兵たちに紹介。
結城は近衛兵を名簿順に呼び出し、個室内で一人ずつ、風水鑑定を行うことにした。
その開始前、結城たち風水ギルド・メンバーだけで、打ち合わせ。
「個室には、僕とリサが入るよ。2人がかりで風水鑑定をする。残りの者は、不測の事態に備えてくれ」
ウェンディが挙手して、
「それは構わないけど。風水鑑定で、どうやって毒殺未遂犯を特定するの?」
「風水鑑定では、人間同士の関係性も見えてくるからね。つまり、ウィウ伯と関連づけると、運気が下がる相手。それこそが毒殺を企む者だ」
かくして、犯人捜しが始まった。
はじめに、ウィウ伯が最も信頼している隊長の、風水鑑定。これによって隊長が『白』とわかったので、事情を明かした。
それからは隊長にも立ち会ってもらった。
犯人が特定できたとき、迅速に捕まえてもらうためだ。
そして、9人目のときだった。
結城は、表示している風水定位盤(他者からは見えない)越しに、9人目の近衛兵を見る。
(この男、ウィウ伯と関連付けたとたん、人間運がぐんと下がる)
リサを見ると、軽くうなずいた。リサも同じ鑑定のようだ。
結城だけでも確信は持てていた。が、人の一生を左右することなので、念のためだ。
結城は、隊長に視線を向け、合図する。
最後に、毒殺未遂犯である近衛兵に言う。
「すいません。風水鑑定に必要な道具を忘れてしまいました。少々、お待ちください」
結城とリサが退出する。ドアを閉めると、すぐに室内から、争う音。
ふいに静かになる。
結城はゆっくりとドアを開け、室内を確認。犯人は、隊長の手によって、無事、取り押さえられていた。
ウィウ伯の申し出により、結城たちは領主館の客室で一泊。
翌日、朝食に招かれた。
ウィウ伯は、犯人の部屋を捜索させたことを明かした。すると、毒草が隠されていたという。動かぬ証拠だ。
「閣下。それで、犯人のほうは今?」
「うむ。物証が見つかったところで、即刻、打ち首にした」
(裁判も受けられず、死刑か。犯人であることは間違いないとはいえ、厳しい世界だな)
「風水ギルドの諸君。そなた達には感謝のしようがない。なんらかの形で、恩を返せればよいのだが」
ついに来た、と結城は思った。
ただ、どう返答したものか。
いきなり要求したら、それ目当てで来たように思われてしまうのではないか?
(実際に、その通りだしなぁ)
結城が切り出し方を一考していると、ウェンディが発言した。
「閣下。私たちは、王都ルセウスに風水ギルド本部を移そうと、計画しております。なにか助言をいただけると幸いに存じます」
結城は、なるほど、と思う。
王都にギルドを置く許可を、直接に求めるのではない。遠まわしに、そのように持っていくわけか。
ウィウ伯は驚いた様子。
「王都に本部を? では、すでに許可のほうは得ているのかな?」
ウェンディは困惑した表情を浮かべた。もちろん演技だ。
「許可ですか? ギルド設立の許可でしたら、ギルド連合よりいただいておりますが」
「いや。王都にギルドを設置するためには、名誉市民の許可がいるのだ。それが他の町村での設置とは違うところだな」
「そうでしたか。無知をさらしてしまいました」
ウィウ伯は顔を輝かせた。
「さっそく、そなた達に恩返しができそうだ。実は、わしも王都の名誉市民でな。よし、そなたら風水ギルドに、王都に本部を置く許可を、与えて進ぜよう」
「感謝いたします、閣下!」
必要な手続きはウェウ伯が進めてくれるとのこと。
結城たちは、ロツペン町で、手続き完了の報告を待つことになった。
帰路の途中で、結城はウェンディに言った。
「朝食の席では、上手く進めてくれたね。ありがとう」
ウェンディは頬を染めた。
「これくらい、お安い御用よ」
王都に本部を移す目途が立った。
さらに伯爵の顧客もできた。
風水ギルドは、順風満帆といえた。




