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1話 転生したので、まずは風水師として開業。風水鑑定スキルは、他人の運命を変えてしまうレベルです。



 朝生結城は、風水師として独立した。

 だが、その夜、交通事故に遭い、異世界へと転生。

 転生前は35歳だったが、転生後の身体は、随分と若い。20歳くらいか。


 転生を嘆いても仕方ないので、新たな世界でしぶとく生きて行くと決意。

 2日目には、職を得た。冒険者ギルド・メンバーの集まる居酒屋での、皿洗いだ。これで宿代は払えるし、無銭飲食もせずに済む。

 冒険者ギルドは皆の憧れのようだが、結城は自分に向いてないと、すぐにわかった。


 結城は、仕事仲間や、親しくなったギルド・メンバーなどから、この世界について情報を集めた。

 自分のことは、転生者と知られると面倒そうなので、遠くの国から来た、ということにした。


 結城が転生した町には、複数のギルドがある。

 が、風水ギルドというものはなく、そもそも風水の知識も人々にはないようだ。

 これで結城の目的は、決まった。

 風水ギルドを設立し、人々の役に立ちながら、お金を稼ぐのだ。

 

 試しに、やんわりと風水の話をしてみる。が、誰もまとめに受け取ってはくれない。

 まずは、風水の信頼を得ることから始めたほうが良さそうだ。


 ギルド設立のためには、メンバーが4人必要とのこと。当然、結城はまだ1人だ。

 ただ、なにも初めから、ギルドにこだわる必要はなさそうだ。ひとまず、個人事業主として働く道がある。

 居酒屋のホール担当に、ウェンディという女性がいる。

 艶やかな黒髪を肩のところで切りそろえた、スタイルの良い女性だ。彼女が、開業のための手続きの方法などを、親切に教えてくれた。

 

 こうして、結城は無事に風水師として、開業。

 ただ、事務所を借りる資金は、まだない。そこで結城は、机と椅子を中古で買って、道端に置いた。路上の風水師から始めることにしたのだ。


 はじめの依頼者は、職人の娘だった。金色の髪が先端でカールした、可愛らしい少女だ。


「お兄さん、これ、なにかしら?」


 と訊かれたので、結城は答えた。


「風水ですよ。あなたの運気を上げるため、助言します」


「魔法みたいなものかしら?」


 いまのところ、結城は本物の魔法を見ていない。厨房の仲間が、魔法使いの知り合いがいると話していたので、

(ああ。やっぱり、この世界には魔法が実在するんだ)

 と感動したくらいで。


「そうですね。魔法とはまた違うと思いますが──なにか、お悩みはありますか? 風水の力で、運気を上げ、悩みを解決してさしあげましょう」


 少女は胡散臭そうな顔をした。


「信用できるのかしら?」


(そうだよなぁ)


 結城は、よそ者──正しくは転生者だが、そのことは隠している──だ。

 いきなり信用しろ、というのが無理な話。ましてや、風水というものが、この世界には知られていないようだし。


「こうしましょう。はじめは無料で、開運のアドバイスをします。うまくいったら、風水は良いということを、周りに広めてください。それがお代替わり、ということで」


 少女は、この提案に納得したらしく、うなずいた。


「いいわ」


「では、なにがお悩みですか?」


 少女の悩みは、父親の仕事に関することだった。同業者の嫌がらせを受け、それが原因で仕事の依頼も途絶えてしまっているそうだ。


「わかりました。では、少々、お待ちを──」


 実は、結城にはずっと、あるものが見えていた。

 大地からあふれ出る、神々しい光だ。

 これは万物のエネルギー、すなわち龍脈の輝きだろう。

 最初に発見したのは、転生してすぐのこと。もちろん、転生前の世界では、見えなかったものだ。

 のちに結城は、理解した。

 龍脈を視認することが可能なのが、僕のスキルなのだろう、と。

 さらに言えば、龍脈の輝きを『視る』ことができるのは、結城だけのようなのだ。


 風水の知識がある結城にとって、龍脈を『視る』スキルは、一種のチート能力といえる。

 なぜか? 龍脈という『氣』の流れを見ることで、精確なる風水鑑定を行うことができるからだ。


 ただ、これだけでは不完全だ。

 九星の配置を示した盤、すなわち、風水定位盤が欲しいところ。


(自作するしかないか)


 そう結城が思ったとたん、視界に『風水定位盤を表示しますか?』、と出た。

 うなずくと、実際に風水定位盤が浮かび上がった。どうやら、結城の視界に表示されているため、他の人からは見えないようだ。


(ここまで揃えば、鬼に金棒だ)


 風水鑑定モードに入ったとたん、金髪の少女の頭上に数値が現れた。

 いまの少女の総合運気の数値らしい。

 しかし、数値はマイナスだ。マイナス12とある。

 つまり、運気が悪いことを意味する。

 この数値をプラスにすることで、少女だけでなく、彼女の父親の運気も上げることができるだろう。

 血の繋がりは、運気の繋がりでもあるからだ。同じ家に住んでいるのなら、なおさらだ。


「仕事運アップの星はいま、西にあります。あなたと父親の部屋の、西側を整理し、清潔にしなさい。その方角が汚れていると、運気が落ちますからね。さらに、西側に窓があるのは、良くないですね」


 少女は困った顔をする。


「あたしの部屋の西側には、大きな窓があるわ」


 西側を掃除することで仕事運を上げても、窓があっては逃げていってしまう。


「しばらくの間、家具などで窓を隠しなさい。言いつけを守れば、あなたの仕事運が上がります。そうすると、あなたのお父さんの仕事運も上昇しますよ。これを運気連鎖といいます」


 そして、結城の言葉通りになった。


 3日後。結城が同じ場所に、テーブルと椅子を置いていると、金髪の少女が駆けて来た。

 少女の頭上の運気の数値は、プラス15になっている。


「あのあと、君に言われた通りにしたわ。そうしたら──」


 父親の同業者が、和解を申し出て来たという。これで妨害もなくなり、仕事の依頼が入るようになった。

 正直なところ、結城は驚いた。こんなに早く、風水の効果が出るとは。

 

 結城の風水鑑定は、人々の運命をも変えてしまう力があるようだ。


「約束どおり、君の風水が素晴らしいこと、皆に伝えるわね」


「ありがとう。ところで、僕の名はユウキだ」


「あたしはエミリーよ。よろしくね、ユウキ」


 滑り出しは上々のようだ。



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