六話
魔法の根源たる力『魔力』。
この魔力を元に生物として構成される生命体、それが『魔物』である。
魔物は普段、人間とは決して出会うことのない森や山の奥、洞窟などに生息しているが、時に何らかの要因で人と魔物が鉢合わせてしまうことがある。その時、人は魔物を武器を持って殺す、または魔法を使って殺す。
そしてそれは魔物も同様で彼等は身に備えた武器を使って人に対抗する。
世間の一般常識として魔物とは危険な存在であり、常に人類の歴史に深く結びついてきた。
その魔物の危険度における最上位種が『ドラゴン』なのである。
「ドラゴンにも色々な種類がいて、雷、風、雪、地震、炎、その他にも十数種類が確認されてるわ。どの種も単純な属性を持つのが特徴ね」
「傭兵達の話によれば、今回ビルキオに現れたのは『毒龍=ポイズンドラゴン』だそうだ。あいつの腹に入ってる毒袋は殺菌薬の材料になる。おいサリー、焼き殺す時はできるだけ腹は避けてくれ」
「了解」
颯太は全速力の馬車に揺られながら、二人のドラゴンについての会話に耳を傾けていた。
「あの、会話に横槍入れるようで悪いんだけど、そのポイズンドラゴンってのは危険じゃないのか?さっきの人達の話じゃ千人の兵達でも撃退できなかったって」
冷や汗を流しながらそう話す颯太、それを聞いた師匠とサリーはクスクスと笑った。
「心配性だな少年、まぁ安心して見ておけ。これでもサリー・フリーアは大陸最強と言われる男の妹だからな。ドラゴンなんて屁でもねぇ」
(『大陸最強』なんと心強いワード・・・)
「任せといて!何匹来ようが焼トカゲにしてあげるわ!」
不自然なくらいにテンションが跳ね上がるサリー。もう若干キャラ崩壊しているな、と思った颯太であったが昨日に彼女のフル火力魔法を食らった経歴を思い出し、大した崩壊ではない、と判断した。
(とりあえず、じっとしていよう)
ここで何か喋ってフラグをたてるのも怖かった颯太は町までの道を口を紡ぎながら揺られていた。
異世界転生という事象にロマンを求める中高生、その脳内で繰り広げられる想像と妄想。
一見多様性があるように見えるが、彼等が思い描く異世界の『景色』は驚くほど類似しやすい。
「中世ヨーロッパのような煉瓦建築の街並み、空を悠々と飛び口から魔法を吐きまくるドラゴン・・・なんて期待していた俺が馬鹿だった」
残念ながら現実と理想の違いは『異世界』においても純粋な若者心に深く突き刺さる。
「これはどういうことだ!」
颯太は人生で数番目に入るであろう落胆を経験していた。なぜなら颯太が見たのは、雲に達するほどの高層ビル群やアスファルトで整備された信号付きの道路、極め付けはその道路を四足歩行でゆっくりと歩く紫色の『巨大トカゲ』の姿であった。
颯太とサリー比較的低めのビルの屋上から下をノソノソと歩く巨大トカゲを見張った。
「あ・・・あれがドラゴン?」
「うん、ドラゴン」
「いや、トカゲじゃん」
「いや、ドラゴン」
サリー曰くドラゴンらしいその紫色の魔物は頭から尻尾までが約15メートルほどあり、全身が黒い鱗で覆われている。背中にはドラゴンの特徴とも言える『羽』のような小さな突起がほぼ飾りとしてついていた。
「あれはポイズンドラゴン、見てわかる通り飛行能力はないの。だけど常に微弱な毒粒子を放出し続けてて、攻撃体制に入ると触れただけで即死の猛毒を吐くこともあるから気をつけて」
「触れただけで!?怖・・・」
「ポイズンドラゴンは私と師匠で片付けるから、颯太は毒にやられてる人がいないか探してほしいの。できる?」
「で、できるかぎりのことはしてみる」
「任せたわよ」
サリーは颯太に数本の回復薬入りの瓶を渡し、少し助走を取るとそのまま屋上からドラゴンのいる道路へ向かって飛び降りた。
「え、嘘っ!?」
颯太は突然の行動に驚き一瞬思考が停止するも、すぐに冷静になり急いで屋上からビルの下を覗き込んだ。しかしそこには既にサリーは居らず、同時に数十メートル先のドラゴンの方から爆発音が鳴った。
『ギュァァァァァァッッッッ!!!!!』
「う、うるせぇ!」
爆発音の直後、鼓膜を破りかねないほどのドラゴンの悲鳴が響く。颯太は堪らず耳を塞ぎ、苦しみもがく哀れなトカゲの姿を見た。
「ポイズンドラゴン、ドラゴンの中では最弱の一種だけど、厄介さで言えば上位に来るわね。私の魔法も問題なく効いてるし、ここは一気に行くわ!」
ドラゴンの背中に乗ったサリーは手際よく足元の鱗を一枚剥がすと、皮膚が剥き出しになった所に両手を置き
「我に『焼却』の魔力を与えたまえ!」
手のひらからゼロ距離で放たれた炎の魔法が鱗のない皮膚から肉を焼き、切り裂いた。攻撃は胴体を貫通し、腹の下の道路へと突き刺さると数メートル四方に渡ってアスファルトが溶け陥没した。
『ギュァァァァァァァァアアア!!!!!』
ドラゴンはさっきよりも大きな叫び声をあげ、そのまま横向きに倒れた。倒れてから数十秒間暴れ続けたが、しばらくすると完全に動かなくなった。
「思ったよりアッサリ終わったわね。まぁ平均サイズの半分くらいだし、見た感じ若い個体だから、こんなものか」
サリーはポケットに入れていたナイフを取り出し、息途絶えたドラゴンの腹を開けた。ニュルニュルっと溢れるように出てきた腑から師匠の言っていた毒袋を探した。
「うわ・・・ひどい臭いね。毒袋の位置からは外して撃ったから無事だと思うんだけど・・・あ、あった!これこれ!」
直径20センチほどの紫色のブニョブニョとした玉、サリーはそれを両手で拾い上げ、カバンから取り出した袋の中に入れた。
「この毒袋が猛毒ブレスの原液・・・これに触れたらどんなドラゴンも瞬殺ね」
サリーの言う通り、この毒袋には超高濃度の毒が入っていて、ドラゴンですらこれに触れれば一秒とかからず死に至るだろう。
そして、ポイズンドラゴンの最も恐ろしいのは死が近付くと、その個体の意思に関係なく『自爆』を引き起こすのである。
意思を伴わないこの自爆は生命活動を終えていてもなお健在で、胃袋を急激に膨張させ自らを敵ごと吹き飛ばすのだ。
「さてさて、他のパーツも頂いちゃいますか!」
サリーが再びナイフを手にした時、彼女の背後にあった巨大な胃袋が瞬間的に大きく膨れ上がった。
「っ!?」
サリーはすぐに逃げようとしたが、間に合うわけもなく、胃袋のサイズは直径10メートルを瞬く間に超えた。そして
ボォンッッッッ!!!!
巨大な破裂音が鳴り響く。