五話
「少年の協力もあり、無事商品を契約先に届けられる。ありがとな」
「いえいえ、夕食もいただきましたし、寝る所まで貸していただいて、本当にありがとうございました」
庭には二頭の馬が繋がれた馬車が待機しており、積荷には大量の薬が並び、颯太はそれを満足そうに眺めながら笑みを浮かべた。
「でもねソータ、残念だけど本当に大変なのはここからなの」
「え?」
「サリーの言う通りだ。これから広大な自由地区のあちこちにある契約先まで薬を届けなきゃなんねぇ。早くても3日はかかるし、長時間馬車に乗るから疲れは尋常じゃない」
「色々手伝ってもらったし、無理に来てもらう必要もないけど、どうする?」
馬車は全く舗装されていないデコボコな山道を約3時間登り、少しの休憩を挟むとすぐに約3時間の下りの道へと入った。度重なる揺れによって颯太の疲労はピークに達していた。
「ケツが痛すぎる・・・」
(散々世話になってて、あの場で断る勇気は俺にはない。とはいえ、この道のりは過酷すぎる・・・)
「サリーは大丈夫なのか?」
颯太は痛む尻を撫でながら、余裕そうな表情で座っているサリーに尋ねた。
「うーん、キツイと言えばキツイけど、もう何度目かだし、慣れたみたい」
「慣れ・・・なのか」
颯太は依然として尻を撫でながらではあるが、『慣れろ』と自分に言い聞かせた。
「つらい時は、こう考えると良いわよ。師匠の作る魔法薬をたくさんの人が必要としていて、これが無いと困る人がたくさんいる。だから私達は彼等に薬を届けなきゃいけない、大変でも誰かのためなら頑張れるでしょ?」
「・・・」
(い、良い子すぎて・・・言葉が出ない・・・)
自由区域には2000を超える町と村があると言われている。15年前の戦争は大陸全体に甚大な被害を与えた一方で、復興による技術革新をもたらした。経済は発展し、人口も右肩上がりで増え続けている。
「まず最初の目的地は『ビルキオ』ね。一様説明するけど、ビルキオは戦後復興から急発展を遂げて、今や大陸最大級の商業都市になってるの」
「うちもおかげさまで年々契約先が増えて、ありがたい話だ」
馬に鞭を打ちながら師匠はそう話し、今回の売上に期待の心を浮かばせると再び鞭を打った。
だが商売というものは中々難しいもので、商品運搬中のアクシデントは付き物だ。3人の一行は道中で鎧を着た兵士らしき男数人に止められ、立ち往生していた。
「ポイズンドラゴンがビルキオを襲っただと!?」
「嘘でしょ・・・」
3人は馬車から降りると、兵士達から詳細を聞いた。男達はビルキオから直接雇われた傭兵で町の防衛をしているそうだが、1000足らずのビルキオ兵ではドラゴンを迎え撃つのは不可能という。
「今、各地の魔法使いに救援要請を出しているのですが、到着まではまだしばらくかかりそうです。申し訳ありませんが、御一行様をお通しすることはできません」
兵士は頭を下げながらそう言ったが、師匠と言えど商売人で魔法薬を納入期限まで契約先に運ばなければならない。だが契約先までの道のりは必ずビルキオを通る必要がある。絶体絶命思われた。だが
「あ、各地の魔法使いって言ったけど、ヤンドル村の方にも救援要請出した?」
「はい勿論です。あそこは大陸最強の魔導師村と言われてますし、彼等がいればドラゴン討伐なんてあっという間ですよ」
その兵士の言葉を聞くや否やサリーは笑みを浮かべ、すぐさま馬車へと乗り込んだ。
「師匠!」
「おうよ!それなら文句無しでドラゴンのパーツを回収できるってもんだぜ!颯太早く乗れ!」
「あ、はい」
(俺完全に空気だったよな?)
馬車を進ませようとする師匠の前に空かさず兵士の止めが入る。
「こ、困ります!」
「大丈夫だ、うちのサリーはヤンドル村出身だ。」
「ヤンドル村の!?それはありがたい!」
馬車の前に立ち塞がっていた兵士達はビルキオまでの道を空けた。そして深くお辞儀をした。
「さぁてドラゴン退治行くわよ!」
「おぉぉぉ!!!」
「おぉ・・・」
(やっぱ空気だ俺)