三話
「世界には5つの大陸があって、ここはその大陸の一つ、セントラリア大陸。かつて海を挟んだ四方を敵国に囲まれながらも、強大な軍事力によって繁栄を極めたセントラリア王国の領土だった。ここまではさすがに大丈夫よね?」
「も、もちろんっ」
夕飯の片付けを終えた颯太は火を挟みながら、サリーからこの『異世界』に関する知識を学んでいた。
「最強国家として君臨していたセントラリア王国は千年以上続いていた『創世戦争』を終結させるべく、各大陸の国家に停戦を提案、これに各国の王が同意して停戦条約が締結された。それが約百年前の話」
(千年も戦争してたのか・・・)
「つまり、その創世戦争ってのが終結して世界に平和が訪れたってことか?」
「そうよ。確かにそれからの80年間は特に小競り合いもなく、大陸内も至って平和だった。けど今から15年前、事件は突然起きた。」
帝歴1250年、大陸各地の反乱分子が突如として勢力を拡大、『革命軍』となり全盛期真っ只中のセントラリア王国をわずか半年足らずで滅ぼした。
王国滅亡の直後、革命軍の内部で勢力分裂が起き、再び戦いが勃発した。多くの犠牲者を出しながら戦いは次第に小規模化していき、現在は休戦状態にある。
「結局今この大陸は4つの勢力で分割されている状態なの。東のモンジル教皇国、北の神ゴール連邦、西のレイト大帝国、南のローブ魔王国、この4つ」
「ちなみに今俺たちがいるのは?」
「ここは大陸中央に置かれたどこの勢力にも属さない自由区域。四勢力の緩衝地帯としての役割を果たしているの。今に続く15年間の平和はこの存在無しでは実現しなかったわ。でも不思議なことにその発案者は不明なのよね」
「自由区域・・・その発想がそもそも凄いけど、他の勢力のボスを説得できる弁論力もあるってことだよな」
パチパチッという音が鳴ると、炎の中に積み上げられた枝が数本地面に落ちた。サリーの瞳の中にチラチラと揺れる炎が見えた。そしてサリーは静かに口を開いた。
「私の両親は王国軍の魔法部隊に所属していた。王国指折りの魔法使いとして大陸の平和に貢献していた。だけど、革命軍に都を攻め落とされたことで王国は全面的な降伏を受け入れた。私の両親も王国軍を止め、何の抵抗もすることなく、革命軍に付き従った。」
だが王国の降伏から3日後、革命軍から独立した『ローブ帝国』によって、無差別殺戮が行われた。死者は500万から1000万人超とも言われている。
「い・・・1000万人も?それって・・・」
「当時の大陸の人口が約1億と言われているわ。つまり10人に1人の人が殺されたのよ。私の両親も・・・」
「そんなの戦争ですらないよ!一体人の命を何だと思ってんだよ!確かそのローブ帝国ってのは南にあるんだよね?南ってどっち!」
「落ち着いてソータ、今私やあなたが何やっても無意味よ。ただ返り討ちに合うだけだし、現にそうしようして何人も帰ってこなかった」
「だけどーー
「今は我慢しなきゃ!待ってれば・・・いつかきっと・・・私達の代わりに奴等を倒してくれる人が現れる」
人任せにするな、そう言おうとした颯太だったが、さっきよりも一層強い光を灯すサリーの瞳を見ると出てきた言葉を飲み込んだ。
江口颯太の生活は至って普通だ。毎朝7:00に起床し、顔を洗い、朝ごはんを食べる。何やかんやあって家を出るのは7:40くらい。
「さて今日も・・・学校へ・・・」
なんて思いながら目覚める。だが目を開けたその先に見慣れた天井はなく、代わりに青々とした雲一つない空があった。
「台風で天井が吹き飛ばされた・・・って言った方が信じられる話だよな」
颯太は昨日あったことが夢ではなく現実であることを改めて知った。
「まさかこの俺が異世界転生するなんて・・・普通陰キャの仕事だろこういうの!俺は普通なんだよ!陽でも陰でもないんだよ!」
「起きて早々どうしたの?まだ寝ぼけてるのかしら?」
「な、なんでもないよサリー」
(まぁこの超天災級美少女が夢じゃなかったことをポジティブに喜ぼう)
「それにしてもよく寝るのねソータは」
「え、今の時間ってーー」
「もうすぐ正午よ。気持ち良さそうに寝てるから起こさなかったけど、そろそろ出発の時間だから、急いで準備してね」
「出発?どこに?」
「私の家」
「私の家・・・ってことはつまり......」
(女子の部屋!!!!!!!!)
色取り取りの花が咲く草原に、真っ直ぐと伸びる細い道。花の蜜を吸いに来た何匹かの蝶が道を渡っていく。
「悪いね、荷物持ってもらっちゃって」
「昨日の夜と今日の朝&昼にご飯ご馳走してもらったから、せめてこれくらいはしないと」
「ありがとねソータ、帰ったらまた美味しいご馳走を振舞ってあげるわ」
「超楽しみ!」
「後、5時間頑張って歩くわよ!」
「おぉぉっ!ーーーーおぉぉ?ご、5時間!?」
「ちょっとだけ遠いけど頑張ろ!」
「うん・・・頑張る・・・」